AEVE ENDING
「雲雀くん」
倫子と雲雀がゲートを潜り、他の生徒達の注目を浴びながら周囲を見渡していると、例の教師、梶本が声を掛けてきた。
隣にはミスレイダーも。
彼女はにこやかに微笑み、倫子に手をひらひらさせている。
「ミス橘、北の島からよく無事に帰還しましたね」
「はい、ありがとうございます。ミスレイダー」
梶本は倫子を完全無視して雲雀の相手をしている―――賢明な態度だ。
こちらとしても大変ありがたい。
「広範囲テレパスが苦手でも、貴方は立派なアダムです。今日からは他のアダム達と同様、このエリアで本格的に勉強を重ねて頂きますよ」
ミスレイダーの言葉に、倫子は素直に頷く。
(ミスレイダーはいつも説教臭い。秘密だけど)
などと失礼なことを考えながら、それでも彼女の言葉を素直に聞くのは、彼女の公正さが嫌いじゃないからだ。
「一人前のアダムになるには、まだまだ過酷な道のりです。頑張りなさい」
ミスレイダーの言葉に倫子が深く頷けば、彼女は誇らしげに微笑んだ。
落ちこぼれをこんな風に励ましてくれる彼女は、立派な「教師」である。
―――が、そのいい雰囲気を、真横から鼻で嗤われた。
「ふん…、せいぜい足手まといにならないよう気を付けることだな」
ほのぼのと和んでいた空気にあっさり水が注された。
勿論、例の馬鹿教師に、である。
見る見るうちに不機嫌を露わにする倫子に、狼狽えるのはミスレイダーだ。
「梶本先生、そのようなことは教師として言うべき言葉ではありません!」
大切な教え子を馬鹿にされ、強気に反発するミスレイダーだが、しかし梶本も引かない。
もともと、東部と西部は生徒、教師共々敵対しているため、互いに引くに引けないのである。
「…しかしね、彼女は落ちこぼれの頂点ですよ。将来もないし、期待もできない」
冷酷な顔。
他者を貶める醜く冷ややかなそれは、倫子をカスとしか見ていない。
(…好き勝手言ってくれちゃって。でも我慢だ、倫子。こんな、脳内シナプスが半分以上性悪でできてるような男、相手するだけ時間の無駄)
「先生!言い過ぎです!」
それにミスレイダーが庇ってくれる。
それだけでいいじゃないか、倫子。
しかし性悪シナプスは甘くなかった。
そして倫子は自分に甘かった。