AEVE ENDING
(……無茶したもんなぁ。まさか出来るなんて思ってもみなかったし)
あんな大層な力を使ったことなど初めてだ。
じわじわと反動が強くなっていく。
押し付けられた凹凸に引っかかっているから耐えられるものの、今、支えがなくなっては倒れてしまう。
ブチッ。
あ、ボタンが。
び、と細い糸がひきつった音がしたかと思えば、壁に押し付けられる力が無くなった。
「…馬鹿じゃないの?」
今にも瞑りそうな目を必死にこじ開け見上げれば、太陽を逆光に立つ、雲雀の姿。
戸惑いの顔を浮かべているアダム達が、雲雀を避けるように後退っている。
倫子を抑え込んでいた男は蹴飛ばされたか、地面にひれ伏している。
わー、まるでヒーローのようだよ、雲雀。
そう言おうとした筈の口は動かなかった。
(…猛烈に、眠い)
考える端から散り散りになって消えていくような不透明さが脳内を支配している。
「あれだけのことをすれば、当然なんじゃないの」
そう倫子へ言い捨てたあと、雲雀は蹴飛ばしたアダムに一瞥をくれる。
「…あんまりみっともない真似しないで。僕の顔に泥を塗る気?」
表情は穏やかなまま、声はまるで底冷えするように冷たい。
「ひ…っ」
信者は悲鳴を上げてその場を後にしたが、それと同時に資材に凭れていた倫子の身体がズルリと崩れ落ちた。
「…馬鹿だね」
その身体が地面へ倒れ込む前に抱え込んだ雲雀の視界に、中途半端に脱がされたシャツが見えた。
その狡猾な諸行に、自然と眉が寄る。
千切れたボタンが、痛ましい。
―――そうだというのに、腕の中で暢気に寝息を立てているなんて。
いくら凄まじい疲労にうなされていたとしても、女として身の危険くらいには過敏に反応してもよさそうなものだ。
「まったく…」
雲雀が溜め息を吐いたのと同時に、隠れていた子供達が一斉に駆け出してきた。
「おにーちゃん!おねーちゃんはっ」
「しんじゃやだー!」
急に倒れた倫子に驚いて、とんでもない想像を巡らせている。
きゃんきゃんと吠える子供達を足下に遊ばせながら、雲雀はもう一度、溜め息を吐いた。