AEVE ENDING
何故この男の猫なで声はこんなに粘っこいのか。
「変態は黙って外にいなさい」
それを一刀両断するササリ。
しかし奥田も引かない。
「雲雀くんは良いわけ?」
雲雀も男である。
なぜ自分ばかり?
オヤジだからか?
いやいや。
「倫子が離さないんだから仕方ないでしょ」
「なにそれズルくない?彼、いっちょまえに思春期だよ?お年頃だよ?ヤバいって。不健全だって」
「黙れ変態」
奥田の相手をしながら、ササリは倫子のシャツへと手を掛けた。
美しく磨かれた爪がボタンが外れたシャツへと掛かった、その時―――。
「…待って」
雲雀がササリを止める。
「なに?」
訝しむササリを横目に、雲雀は倫子の額に手を置いた。
(…氷みたい)
ひんやりと伝わる体温に眉を顰める。
らしくなくて落ち着かない、なんてまさか。
「雲雀さん?」
ササリが首を傾げた。
それを合図にしたように、倫子の額へ置かれていた雲雀の掌が揺れる。
ジュッ…と水分が蒸発する音がしたかと思えば、倫子の濡れていた髪がふわりと靡いた。
「…あら、」
ササリが感心したように自分の頬に手を添える。
倫子の濡れた体は完全に水分をなくし、体温すら戻ったのか、蒼白だった倫子の頬に赤みが差している。
「…君がそんなに優しかったなんて、知らなかったわ」
雲雀を見やり、意外そうに目を細めているササリの視線を冷ややかに流しつつ、雲雀は倫子を見遣った。
「…別に。見苦しいものを見たくなかっただけ」
見苦しいもの――倫子の裸のことである。
「…、」
その理不尽な科白に反応したらしい。
閉じられた倫子の目元が痙攣し、瞼がゆっくりと持ち上げられた。
薄い瞼から現れた眼球がぱちりと瞬き、自分を見下ろしている男を映し出す。
「…見たこともないくせに」
ぼそりと吐き出された声は、枯れ果てた枝のように滑稽だ。
まるで病人。
しかしその眼は変わらず挑発的で、自分の口角が自然と釣り上がるのを自覚せざるをえない。
「そもそも見たくない」
病人なんぞに同等の反論など望まないが、一応こちらの名誉くらいは守らなくては。