AEVE ENDING





(あれだけの力を使って疲労だけで済むなんて、奇跡だ…)

倫子は水脈を探った時のことを思い出し、どこか高揚したままの気分を落ち着けるように息を吐いた。

「ならどうしますかねぇ。…寝とく?」
「それしかないわよ。あんた頑丈だから、休めばすぐ回復するわ」

ササリが倫子の前髪を優しく梳いてやる。
それを抵抗もなく受ける倫子は、幼いこどものような表情を浮かべていた。

随分と、親しげな関係だ。

(…秘密ばかりだね)

三人の様子を傍観していた雲雀が静かに毒づいたが、それが三人に届くことはない。


そんな雲雀をよそに、奥田の手が倫子の額を撫でた。

「ここで休んでもいいけど」

どうする?と首を傾げた奥田に、倫子は口を開き掛ける。

(…部屋で寝たい)

同時に流れ込んできた思考。
それを唯一受信した雲雀は、深々と溜め息を吐いた。

倫子が痛めた喉を使う前に、その口を掌で覆う。


「ム、」
「部屋で休みたいそうだよ。連れてく」

言うが早いが、雲雀は控え目に腰を折った。
驚いた様子のササリと奥田をよそに、倫子は諦めたように息を吐く。

(…また頭ン中、流してしまった)

この男に借りを作るのは大変好ましくないが、今の自分の状態を考えると仕方がない。
珍しくありがたいと思える申し出に素直に従おう。

この男が、わざわざ腰を折ってくれたのだ。

晴天の霹靂。
明日は空から錨が降る。


「早く」

促されるまま、雲雀の細い首に腕を回すが、腕を持ち上げることすら辛かった。
雲雀の細い首が折れやしないかと心配になりつつも、全身が鉛のように重い。


「ちゃんと掴まっててね」

ぐいと体を引き上げられると、その尖った肩に胴体を乗せられた。

まさかの俵持ち。


(…え、あ、ちょ、お姫様抱っこじゃないんだ)

頭が完全に雲雀の腰元に落ちる。

(…すみません、頭に血が昇りそうなんですけど)


「文句言うなら落とすよ」

必死の訴えはあっさりと叩き落とされた。




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