AEVE ENDING





群れていた東部のアダム達がこちらに視線を移す。
視線の先は明らかに彼女だ。

(男の性(さが)かなにか知らないけど、下劣だ、あまりにも)

そんなことを考えながら雲雀は表情を変えることなく西部の女会長を見た。

(名前、なんだったかな。……確か、朝比奈、雛)

雲雀の視線が自分を捕らえた途端、その朝比奈雛は頬を赤くした。
恋する乙女を地でいく彼女は、頬を染めたまま雲雀にかしずくように膝を砂につけた。

「雲雀様。この度はわざわざ西部へご足労頂き、有難うございます」

そして歌うように、笑う。


(…あぁ、馬鹿な、人)

西と東の実力の差は明白だが、対等でなくてはならない。
そうしなければ西部のアダムの志気は下がるし、東部の家畜共を更につけあがらせる。

(だというのに、西のトップが対等に立っている筈の東のトップにかしづくなんて、愚の骨頂だよ)

雲雀は皮肉げに口角を歪めた。

(君は代表失格だよ。…朝比奈雛)

雲雀が浮かべた嘲笑にすら頬を染める雛から目を外し、雲雀は再びチェス板に視線を落とした。

煩わしいものから開放され、静謐が戻っている。


(…あれ、ノイズが止んでる)

そう思った瞬間。





(このクソッタレ…!)

怒濤の声と共に、目の前にあったチェス板が派手に吹き飛んだ。

「きゃあ!」

朝比奈が顔面蒼白になって跳ねた駒を見ている。

雲雀といえば、やはり表情を変えることなく、チェス板を彼の目の前から消した原因を見た。

目前で憤然と仁王立ちしている女生徒の顔を確認して、雲雀は口角を緩める。

「…やぁ、アミは見つかった?」

自分でも意地が悪いな、と思わせるほど皮肉な笑みで。
現に、それを向けられた彼女は握った拳をわなわなと震わせている。

「…っ視たんなら助けに行けよ!このろくでなし!」

そう怒鳴って、再びチェス板を蹴り飛ばした。
そして言うが早いが、再び猛スピードで駆けていく。

行き先は、先程雲雀が視た「アミ」がいる場所だろう。

(……視ていたなら助けろ?僕があれを視たと、何故知ってる?)

走り去っていく見知らぬ女生徒の背中を見ながら、雲雀は疑問を口にする。


おかしい。

先程感じた違和感も気になるが、彼女の言葉は、もっと。




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