AEVE ENDING




(僕は思考を飛ばしてない。大体、僕が透視した映像が第三者に流れるなんてこと自体、有り得ない)

しかし彼女は、僕が視たことを知っていた。
そしてそれは、僕から彼女に情報が流れた事を意味する。

―――有り得ない。
アダムの思考には本能に組み込まれたストッパーが掛かっている。
故意に読みとるか送るかしなければ、他人に自分の思考が流れる事はない。

彼女が言ったことが起こるのは、決して有り得ないのだ、それはアダムとして。

(そういえばあの子、「クソッタレ」って叫んだ時、あれは明らかに思考だった)

僕に飛ばそうとして流れたものじゃない。
では何故、僕はそれを読み取った?


「雲雀様、大丈夫ですか?」

朝比奈が泣きそうになりながら雲雀に駆け寄る。
とはいっても、雲雀に別段異常はない。
大体、あの程度で僕がどうにかなると思っているのか。

「僕を侮辱する気?馬鹿にしないで」

近付いた朝比奈の頬にわざと指を滑らせ、雲雀は妖艶な笑みを造った。

「…っぁ、ごめんなさい」
「ん、いい子」

雛の髪を指で遊びながら雲雀は見知らぬ女生徒について彼女に尋ねようと口を開く。

「ねえ、あれは誰?」

囁かれるように顔を近づけられ、朝比奈は腰が抜ける寸前のような顔をした。
雲雀は内心で、大袈裟な、と呆れる。

「…っ雲雀様のお耳にお入れするような者ではありません!ご無礼についてはお赦しを…」

顔を真っ赤にしながら、それでも求める言葉は紡がれない。
雲雀は蕩けるように目を細め、朝比奈雛と視線を交えた。

「ねぇ、僕の言葉が解らない?僕は、あれは何?と訊いてるんだ」

蒼みがかったような黒い瞳と、朝比奈の泣きそうな瞳が交わる。
雲雀は妖艶な笑みを浮かべ、無言で朝比奈を促した。

「…ただの、西部の落ちこぼれですわ。イヴと呼ばれる、アダムのなり損ないです」

やっと声を発した朝比奈は、茹で上がったように赤い喉を震わせた。

「そう…」

朝比奈の言葉を聞くや否や、興味が失せたように朝比奈から視線を外す。
その横顔すら美しいと、朝比奈は見蕩れた。

(イヴ、ね。確かになり損ないだ)

自らも東部の人間を家畜と呼び侮蔑するが、イヴとなれば次元が違う。アダムとの確固たる隔離が必要なの域だ。

人間じゃない、アダムでもない―――なり損ない。




< 32 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop