AEVE ENDING
「…雲雀、晩飯が───」
倫子が雲雀の前に立つ。
ゆるりと動いた視線が、今初めて気付いたかのように「母」へとに向けられた。
まるで挑むような、眼、で。
真摯に、値踏みするような。
淑女は青ざめた唇を震わせたまま微動だにしない。
紳士はまるで、橘の姿など見えていないように振る舞っている。
「…こんにちは」
異変を見て取れる玲瓏な男女に向けて、倫子は明らかな作り笑いを向けた。
嘲笑う。
「橘…倫子です。はじめまして」
倫子の微笑は引かない。
差し出された手に、淑女ははっと息を飲む。
明らかな動揺を見せた母親を、雲雀は鼻で笑った。
(橘と、まさか繋がりがあったとはね)
表面上、初対面を装ってはいるが、彼らの間には明らかな確執が見て取れる。
優勢なのは橘であり、劣勢は紳士淑女。
なにか、後ろめたいことでもあるというのか。
昔から、きな臭い夫婦ではあったが。
どちらにせよ、この夫婦が圧されるなど滅多にない事態だ。
「…あ、貴方が、雲雀さんの」
震える声で、彼女は言う。
それを庇うように、今まで傍観していた父親が前に進み出た。
「はじめまして、橘さん」
青ざめた端正な顔を必死で穏やかに歪ませた様は、まさに滑稽の他ない。
不自然な微笑を真正面に受け、なお、笑みを浮かべたままの橘は差し出された手を躊躇なく握った。
「こんな可愛らしい方が雲雀のパートナーを務めているとは驚きだな」
簡単なお世辞を舌の上に乗せ、紳士は倫子からゆっくりと離れる。
(…務めてないよね)
(黙れ)
(可愛くもない)
テレパスで会話をしながら、雲雀は倫子の異変に気が付いていた。
自分の鎖骨位置にある倫子の耳朶、それを辿った首筋の皮膚は粟立ち、冷や汗が一粒。
(橘…?)
様子がおかしい。
体力は回復した筈だ。
腕の怪我が?
(それとも―――)