AEVE ENDING
沸き上がる高揚感は否めない。
倫子の力など取るに足らない虫けらと同等だというのに。
(───本気で僕を殺そうとする眼が、堪らない)
その傷跡だらけの首筋に付いた、自らが残した紅い痣が、雲雀を誘う。
倫子は素早い。
反射神経も悪くないし、動態視力というよりも勘がいいから、まるで獣を相手にしている気分になる。
傷だらけの獣は、引くことを知らない。
倫子が雲雀に向かってくる。
バカ正直に、真正面から。
「馬鹿」
面白い。
逃げるという選択肢を持たない、勇敢で臆病な、獣。
その不純な殺意に満ちた眼が、恐怖で涙を湛えるのを見てみたい。
その揺るぎない魂を、ぐちゃぐちゃに踏み潰してしまいたい。
「ねぇ、橘、なにを隠してるの?」
繰り出された拳を受けたまま掴み、そう囁けば、憎々しげにこちらを睨みつけてくる。
「黙れ!」
醜くもバネのある脚が勢い良く雲雀の脇腹を狙う。
それを片手で薙払い、息を吐いた。
風切り音が鼓膜を揺るがす。
(───あぁ、最高に愉しい)
真正面から拳が突き出された。
それを拘束し、俯かせた状態で真上に腕を捻りあげれば倫子が震える息を吐く。
「終わり?」
耳朶をしゃぶるように囁けば、押さえつけられた肩越しにこちらを睨みつけてくる。
「なんで力を使わない。馬鹿にしてんの?」
揺るがない。
自然と口角が上がるのを抑えきれずに、雲雀は嗤った。
「フェアじゃないからね」
「…ほざけ」
───ぞくぞくする。
体は屈服され、それでも怯まない。
「…殺してやりたい」
滅茶苦茶に蹂躙して、希望もなにもかも絶って奪って、貶めて。
「そりゃこっちの台詞だ。焼き鳥にして喰ってやるから覚悟してろ」
その瞳は、あぁほら、まだこんなにも強く煌めく。
「…なら」
食べてみせて。
その傷だらけの体は、なにを意味するのか。
その秘密だらけの胎内はどんな味がするの?
「教えてよ、橘」