AEVE ENDING
(―――あの人が、私を選んだ)
あの日、遠目だが初めて例の女性を見た倫子は、譫言のようにそう繰り返していた。
家族のもとから引き離され、体と魂をいじくりまわされ滅茶苦茶にされた要因を、倫子はまるで自分の記憶に刷り込むように。
何度も、何度も、何度も。
(気持ちが悪い)
どうすればいい?
『…同じように滅茶苦茶にすれば、気が済むかな』
ベッドに横たわる倫子がぽつりと呟く。
消化器系が負傷している為に、腕には栄養剤を注入する点滴が繋がれていた。
割れて剥がれた爪から覗く肉が、痛ましい。
(…気持ち悪い)
その痛々しい、姿で。
倫子は。
「倫子、寝てるから起こさないでやってね」
奥田が倫子の部屋から出てくると、雲雀はだだっ広いベッドにゆったりと腰掛けていた。
「…そう」
紅茶を片手に、そう一言だけ返す。
「雲雀ちゃんさぁ…、倫子は仮にも女の子なんだから、ちょっとは手加減してよ」
あの痛々しい痣!
奥田が大仰に肩を竦めて見せても、雲雀は反応すら見せない。
(こんな曖昧な忠告を、聞いてくれるなんて思ってないけどね)
「…あんな痣、橘にしてみたら傷にもならないんじゃないの」
一言。
唐突でありながら的を射た言葉。
「…あの痕は、なに?」
倫子の全身を走る、メスと継ぎ接ぎの痕。
「気になるの?雲雀クン」
「断片だけチラつかされても、不愉快なだけだからね」
そうだよねえ。
倫子は隠し事が下手だから。
不愉快、か。
ねぇ、雲雀くん。
それは倫子に興味を示しているのだと、何故、気付かないの?
―――何故?
「橘は、アレは、なに?」
そう。
君は、あの子をアレと呼ぶんだね。
「なんだと思う?」
目を細めれば、その秀麗な柳眉を顰める。