AEVE ENDING




(けれど)

それなら尚更、不可解であり不愉快でもある。
そのイヴ相手に、「神」の称号を受けた自分の思考が流れた。

まるで凡庸な人間のように、だ。

「名前は?」

雲雀は視線を水平線に留めたまま、朝比奈に囁いた。
彼女に抵抗の意志はない。


「……橘 倫子」


(なんだ、つまらない名前)









「…なんか今、すっげムカつくのが流れてきたんだけど」

砂浜を抜けて岩場が目立ち始めた浜辺の先。
窪んだ砂丘と岩盤の陰で。
その岩盤に女生徒がふたり、、張り付くように立っていた。

倫子は今、アミと並ぶようにして東部の男子生徒を睨みつけていた。アミの手には岩盤が触れている。
変質能力としての唯一の突破口だ。
今はまだ、時間を計る。

「なに、どうした?」

倫子の独り言に、アミが律儀に応える。

いきなり自分の名前を叫びながら飛び出してきた彼女には驚いたが、今や鬼に金棒気分。
男に囲まれて役に立たない独りぼっちより、支え合えるふたりのほうが断然いい。

「名前、馬鹿にされた」
「誰に」
「それがわかんないから、ムカつくんだよね」

いや、どんな人物かは解っている。
ここに来る前、チェス板を引っくり返してやった、あの不公平を形にしたような美しい男だ。

あの男の存在に気付いたとき、完全に読めた。

強力な磁力。
アミに向けてのテレパスも全て、あの男に流れていた。
なにもかもを引き寄せる、抗いようのない引力のように。

恐らくあの男が、「修羅」―――。



「性格極悪」

あの、クソ憎たらしい顔ったら、ない。

「てか、なによ、この女」

アミと会話していれば、前方に立ちはだから男の一人が口を開いた。
特に崩れた顔をしているわけではないが、「あの男」を見た後だとどうも色褪せてしまう。

「うっせー強姦魔。盛ってんじゃねーよ、駄犬が」

腹立たしさに悪態をつけば、東部の男たちはカラケラと笑う。

「ひっどいなあ。俺たち西部が東部の女を相手にしてあげようってんじゃん。素直にこっち来いよ」
「ウザイキモイ今すぐ死ね」

アミによれば、彼女に目を付けた彼らに無理矢理ここに連れてこられたらしい。

どれだけタチの悪いナンパだ。




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