AEVE ENDING







『―――…ちゃん、』

『おねーちゃん』

声がする。

『おねーちゃぁん…』

あの子だ。
貧困エリアで一緒に遊んだ、あの女の子。


『おねー…ちゃん…』

頭が痛い。

頭に、声が。


『おねーちゃん…』

どうして、泣きそうな声なんだろう。


『助けて…、おねーちゃぁ…ん』






「―――っ…!」

冷や汗が額を伝って、勢い良く飛び起きた。
完全に陽が落ち、辺りはもう暗闇に包まれていた。

空気は夜のものとなり、身震いするほど冷えきっている。


ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク…。


けれど身体の内側だけが、熱い。

心臓が早鐘を打つ。

息が切れた。


「……、…エリア」

譫言のように呟いて、全面ガラス張りの壁へと視線を向ける。
頭の中を、まだあの女の子の悲鳴が駆け巡っていた。


―――嫌な予感がする。

しかし、こちらから見た貧困エリアに異変はみられない。
いつものように、篝火が逞しく燃え盛っているように見えるが。


「───、違う」

警鐘が、心音と共に鳴っていた。

ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク…ッ。



「…っ雲雀!」

なにも考えられず、ベッドから飛び起きて隣の部屋へと駆け込んだ。
足を縺れさせながら、ソファに腰掛け洋書を手にしている雲雀へと飛びつく。

「うるさい」

そんな倫子を煩わしげに一蹴した雲雀だが、しかし倫子も引かない。
引くという選択肢すら浮かばないほど動揺していた。
上気した頬、眉間に皺を寄せて、切羽詰まった顔で。

「エリアがおかしい…!あの子達が泣いてる!連れていけ!」
「…人に物事を頼む態度がなってないね。やり直し」

まぁ、その前に少し落ち着いたら。
静かな視線に制されたと思ったら、殴られた。

「…ぃっ、」

瘡蓋が出来ていた唇の傷がまたぱっくりと開く。
皹割れたような痛みが走り、倫子は滲んだ涙を乱暴に拭いさる。

「そんな悠長なこと言ってる暇ないんだっつの!頼むから早く!」

腕を掴む力に更に力を込める。

早く早く早く。




『…おねーちゃん』


警鐘が鳴っている。
焦燥の汗が流れる。



『―――…きゃぁああっ』





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