AEVE ENDING
「っ橘!」
どこからか悲鳴が上がったかと思えば、端正な顔の横には、昨日の「雛ちゃん」が立っていた。
「失礼な口をきくんじゃありません!雲雀様がテレポートさせて下さらなければ貴女方は今頃…!」
ぎゃんぎゃんと喚くさまは昨日と変わらず。
お前はチワワか。
喚く朝比奈を余所に、倫子は立ち上がり呆然としているアミに駆け寄った。
仰向けのアミの上で跨ったまま呆然としている男を蹴り倒し股間を踏みつけると、轢死した蛙のように鳴く。
それを観ていた観衆が(特に男性が)えげつないと身を震わせた。
「橘…」
のろりと起き上がったアミに手を貸す。
「怪我は?」
尋ねつつ見れば、目立った外傷はなく少し服が乱れてる程度で済んだようだ。よかった。
「今の、テレポート…?凄い、初めて体感しちゃった」
アミはぼんやりとした様子で、まだ違和感の残る自らの掌を見ている。
強姦されかけたことより初めてのテレポートの方が強烈だったらしい。
逞しいことこの上ないが、気持ちは解らないでもない。
テレポートなんてサイコキネシスの中でもハイクラスの能力だ。
教師である奥田ですらなかなかできはしない、最高位のサイコキネシス。
肉体の細胞を電子レベルまで解剖分解。粒子に変換して、イメージした座標に移動。そして再び、粒子を一寸の狂いもなく再構築する。
メカニズムはそんなものだが、未だに詳しく解明されていない未知の能力。
テレポートをするには、かなりの能力とセンス、そして人体に関する知識が必要となる。
箱船連盟に所属するハイクラスのアダム達にですら、この技は難しいと云われるのだ。
そんなものをいきなり体感させられて、衝撃を受けないわけがない。
「アダム」であればあるだけ、その影響力は凄まじいものなのである。
(それはつまり、「修羅」の名が伊達じゃないってことで……)
「橘!」
朝比奈がヒステリックに叫ぶ。
倫子は眉間に皺を寄せたまま、雲雀と朝比奈が立つ方へと目を向けた。
「黙れチワワ。お前はほんとうるさいな。まだなにか用なわけ?朝比奈さんよお」
(男の横で暢気に頬染めてんじゃねーぞ、このクソ女)
こっちは強姦されかけたんだぞ。