AEVE ENDING
「───ぅ、え…」
バタンッ。
その時だった。
バスルームの背後のドアが、勢い良く開かれる。
「え、」
「橘」
―――は、?
振り向く。
シャワーの湯気や飛沫にまみれた視界に映る、浴室の扉を開けて堂々とそこに立つ、
「……っぎゃあぁあああぁぁあぁ」
―――雲雀。
「ちょっとうるさいよ。睡眠妨害だ。黙れ」
「睡眠妨害って、おまえ寝てねーじゃん!つうか今スッポンポンなんですけど!誰がって…倫子さんがね!」
だから出てけぇええ!
渾身の力を込めて叫ぶが、雲雀が動く様子はない。
あまりに堂々とした立ち姿に、素っ裸でシャワーを浴びていた自分のほうが悪いような気がしてきた。なんだそれ。
浴室の床に慌ててしゃがみこむと、雲雀に背中を見せた。
しかしそれでも、雲雀は怯む気配すらない。
(ちょ、なにこの人…!なんかこれ見よがしに見てんですけど!)
「ねぇ、橘」
湿度の高い空間に、艶やかで素っ気ない声が響き渡る。
「…っな、に」
雲雀の声色はいつもと変わらない。
一応、年頃の男が女の裸を前にしてるわけだから、多少上擦るとか…、いや、自ら覗いてきたんだけども。
(…私が上擦ってどうする)
それなのに、雲雀は平静を保ったまま、ゆるりと。
「…みんなそうだよ」
そう、ゆるりと、口にした。
「みんなそう。橘だけじゃない」
なにが?
追求したいが、今この状態ではその顔を振り向けない。
「人は醜く、愚かだ」
だから自己嫌悪に陥るのは止めて、早く浴室を明け渡してね。
「僕もシャワー浴びたいから」
すらすらと耳に入る言葉は、まるで慰めのようだった。
あの、雲雀が。
……パタン。
扉が閉まる音。
遠ざかる、気配。
出しっぱなしのシャワーの音が酷く耳について、倫子はうずくまったまま泣きそうになった。
―――だから。
(そーゆーことするなってば…)
益々おかしくなってゆく。
私はあんたに、今のこれとは全く正反対の感情を抱かなくてはならないのに。
「あぁ、もう…」
お湯とは違う温かなものが、倫子の胸をやんわりと満たしていく。
(…裸、見られた)
そんなこともう、気にならないくらいの、労りだった。