AEVE ENDING





「…双子はいなかった?」

西部箱舟、医務室。
腕の治療と称し真夜中だというのにここを訪れたのは、珍客中の珍客、雲雀だった。

「そうみたいよ。大方、ギリギリで意識取り戻して逃げ帰ったってとこかね」

湯気の立つ茶を手にする奥田は、不躾な訪問者に機嫌を損ねるでもなく律儀に答えた。

「それで、なにか収穫はあったの?」

回転式チェアに腰掛け、にんまりと雲雀を見据える。
その背後にある巨大な窓からは、つい先程まで滞在していた貧困エリアの全貌がえた。
火災は沈静化したらしく、篝火も全て落ち、以前の煌めきは見られない。

闇が支配する世界。
ただ暗闇に横たわる陸の骸だけが、そこに在った。


「収穫、ね…」

いけ好かない。
そのうちに孕んだ秘密を隠し通す気があるのか、それとも探り当てて欲しいのか。
どちらにせよ、傷付くのは彼ではなく倫子なのだろう。

この奥田という男は、事の当事者であり、倫子の賽を振る者だ。



「橘の秘密とやらを、彼らは口を揃えて訴えてきたよ」

言えば、奥田は唇を震わせた。
それはもう、可笑しくて堪らないというように。

「ほんと?イイね、最高」

なにが最高なのか知らないが、奥田のその態度が気に喰わなかった。
奥田と倫子は同じ秘密を共有していながら、それが暴かれる


「…どうせ訊いても無駄だろうから、ひとつだけ」
「いいよ、今、超機嫌いいから、センセーなんだって話したげるよ」

奥田が嗤う。

―――嘘つき。

雲雀も嗤う。

腹に過去の燃え滓をため込んでいる男の、不気味な笑み。


「北の島で捉えた男は、まだ喋れる状態?」

雲雀の簡潔な問いに、奥田はにんまりと嗤った。
それは酷い不出来で、不快をもよおすほど。

「いいよ、大丈夫。雲雀くんなら場所は探せるよね?行っといで」

ひらひらと手を振る男の双眸は、胡乱とした企みに満ちたものだ。
その笑みに従うのは大変気に喰わないが、しかし今、ここで反発する意味もない。





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