AEVE ENDING






整備された街の中心部から数キロ離れた郊外。

庭園が麗しいとされる政府御用達の洋館に、雲雀は訪れていた。

無論、無断である。
雲雀の肩書きならば、政府官僚を通じて了承を得るなど造作もないが、これはプライベートだ。
私事で騒ぎ立てられたくもなければ、許可が下りるまで待つ気も毛頭ない。

医務室を後にしてすぐ、雲雀はここへテレポートで飛んだ。

真夜中の洋館は静謐に包まれ、雲雀の革靴だけが音を立てる。
薄闇から覗く庭園は夜目でも充分に美しい。
実家の庭園とどこか同じ香りが漂い、雲雀は顔をしかめた。


カツ、カツ…。

磨かれた、一切の曇りない床と天井に音が響く。
この館の地理など知りもしないが、雲雀はまるで誘われるように館内を歩き続けた。

ここの管理人は深夜を過ぎれば帰宅し、無人になる。
研究者を捕らえた今も、それは変わらないようだった。

壁と一体化した隠された扉に無意識に手を置き、その錠をなんなく解除し、解放する。
地上から地下へと降りて、更に闇の奥底へ。

まるで見えない糸に手繰られるように、雲雀は地下をゆっくりと巡っていた。


無機質な回路が続き、幾つか覗いた部屋は手術室のようなものばかり。
部屋の中央に置かれた診察台の真上には五つ目のライト。
メスや人工管が並び、薬品が置かれた棚やテーブルが目立つ。

八つ目に見た部屋は、まるで拷問部屋のようだった。
機器が並ぶわけでもなく、ただ窓も通気口も椅子もテーブルも棚すらない。
ただの、「部屋」という空間。
しかも内壁の色は、人に最大の圧迫感を与える目映いばかりの白。


(…研究棟、なの?)

しかしそのどれも、最近使われた様子はなかった。

完全に閉鎖された空間。

停滞し続ける空気は、本当にこんな場所に人間が捕らえられているのか、雲雀にすら疑わせた。



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