AEVE ENDING
(…橘の匂いがする)
そして、先程から纏わりつく無機質ではない匂いに、雲雀は鼻を鳴らす。
この館内に漂うものなのか、自分の身に染み着いたものなのか。
考えるも、雲雀は先へ進む。
そうして、いつまで経っても終わりが見えずうんざりした頃、一番奥の突き当たりにぶち当たった。
巨大な白亜の壁に、意思を伝えるようにそっと手を置く。
数秒後、仕掛けられたカラクリがかちりと鳴いて解除されたのを黙認して、雲雀は手を離した。
ずり…と砂と硬質が擦れるような音と共に、壁が数ミリ浮き出てゆっくりと隙間が現れる。
───厳重に隠された扉。
緩慢な動きでやっと開ききった扉に、雲雀は身を滑らせた。
真っ暗。
闇が深すぎて目眩がしたが、しかしその闇の底から、不意に生々しい人の気配が沸く。
「…待っていたよ」
それを認識したと同時、それは口を開いた。
天井に埋め込まれた照明が、一瞬で灯る。
「…やぁ、また会ったね」
照明に照らされた室内はただ広い。
四方は打ちっぱなしのコンクリートに囲まれ、酸素は他より幾分か低いらしい。
呼気が、白かった。
その中央に、拘束具すら身に付けていない男が地べたに座している。
かなり窶れているが、しかし見覚えがある。
その男は正真正銘、北の島で発見した科学者の生き残りだった。