AEVE ENDING





「来ると思っていた。…こんなに早いとは思わなかったがね」

生憎囚われの身で、茶すら出せないが赦せ。

男はくつくつ嗤うと、座したまま雲雀を見上げた。
雲雀はただ、無表情のまま男を見下ろしている。



「なら、早く話してくれる。焦らされるのは性に合わない」

言い捨て、雲雀は腕を組んで男の向かい側にある壁に凭れた。
慇懃な態度の訪問者に男は機嫌を損ねるふうもなく、ただカラカラと嗤う。

その声が反響して、まるで蟲が這うように雲雀の鼓膜を揺らした。


「ふふ…。まさか神が直々に参上してアレの話を聞きたがるとは、あの時は思いもしなかった」

男は口許にただ笑みを張り付けていた。
年寄りは前置きが長い、と雲雀は半ばうんざりする。


「訊くよ。橘は、僕の、なに?」

神が口を開く。
男はその問いに打ち震えた。


「橘倫子───我々の至上最高の傑作であり、失敗作。…神の、君の身代わりに造り変えた、我々の可愛い可愛い、モルモットだ」

男は遠い目をした。

嗄れた声が語る内容に、雲雀は眉を顰める。


「昔話をしようか…。なに、すぐ終わる」

男は草臥れた白衣の前を合わせ、前かがみに雲雀を窺い見た。


───その胡乱な眼は、許可を求めている。

赦しを乞うように。

麗しい雲雀の眼が、視線でそれを促す。
男はやはり、嗤ったままだった。




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