AEVE ENDING
あぁ、これはそう、昔の話ではない。
橘倫子がこの洋館に搬入されたのは、確か二年前の春。
政府が秘密裏で行っていた実験の、第一の被験者とも言えよう。
───先の大戦で荒廃した世界。
一からスタートとなった人類の史実に偶発的に現れた、新人類アダム。
その遺伝子の配列は従来の人類のそれとは異なり、それが要因なのか未だ定かではないが、彼らは超能力を有していた。
脳の百パーセントの活性化、第六感の異常なまでの発達、身体能力の突出。
それは、荒廃に帰した地上に差したただ一筋の希望の光であった。
アダム発見当初はただの驚異でしかなかったその存在は、やがて地球にとってなくてはならない存在となる。
アダムの誕生で世界は百八十度変わったのだ。停滞していた環境整備も国の発展も、なにもかも。
アダムのサイコキネシスに、政府は一番に着目した。
その能力があれば、国の発展開発、環境の整備すら大掛かりに進められる。
「しかし、問題があった」
それはアダムの希少価値だ。
喩え新人類と謳われ着目されようと、その人口が増加するわけもない。
アダムが誕生する確率を割り出すことは難しく、アダムの確保が一番の問題になった。
「だから政府は考えたのだよ」
急遽、国会に特設された特別機関。
───その目的は、アダムの人工増加計画。
著名の研究者達を全国から召集し、それは開始された。
「手初めにクローンを作成した。勿論、優秀なアダムのね」
男は嗤う。
雲雀はただ、無言のまま話を聞いていた。
研究の先駆けとなったクローン実験はすぐに廃止された。
それは人権侵害が問題になったわけでもなく、ただ純粋な研究の失敗だった。
「次は胎児を使った。けれどこれも芳しくない。遺伝子を書き換える時点で細胞が崩れ、研究対象はただの肉塊になった」
これでは駄目だ。
様々な実験がなされたが、研究はすぐさま暗礁に乗り上げた。
当然と言えば当然である。
神の所業を、人がそう簡単に成し遂げられるわけもない。
結果を残せない研究に、無気力な科学者はひとりまたふたりと、この実験から離れていった。
先の見えない研究に人生を費やすより、今は環境改善に携わった方がずっと有意義だったからだ。