AEVE ENDING
「…気付けば、いつの間にか三人になっておった。君が知る、北の島に追放された三人だ」
―――そこで、誰かが言った。
人間をアダムに「進化」させることは、できないだろうか。
クローンでもなく胎児でもなく、完成に近い人間を使っての、実験を。
そうして実験は綿密に計画を練られ、慎重に試験を重ねていった。
そしてやっと、「人間」を使う準備が整ったのだ。
「こうして我々に与えられたのが、君が知る」
「橘……」
雲雀が掠れた声で呟いた。
男は肯定を示すように、満足げに笑む。
「どういった経緯で届けられたか知らんが、どこにでもいるような小娘だった」
健康な肢体に健全な精神。
生意気な性格は、研究には持って来いの図太さだった。
「自分はアダムであると騙されて連れてこられたらしくてね、ここに来た当初はひたすら…動物のように暴れていたよ」
大切な健康体を傷つけるわけにはいかなかったが、拘束すれば必死にそれを外そうと暴れ、傷を負い、監禁すれば壁を破ろうと壁に衝突する。
「数日でボロボロになった。我々が手を下すでもなく、ひたすら暴れてね」
男は苦笑した。
男には似合わない、人間味に溢れるような、笑み。
───橘倫子をモルモットと称し、それでも愛着はあったのだろうか。
「…それだけ体力があるならばと、すぐさま実験を開始した」
白く波打つ腹を割き、瑞々しい内臓を掻き分け、細胞を摂取し培養にかける。
通常の八倍近い麻酔を使用しているうちに、モルモットの体に麻酔は効かなくなった。
世界中から収集したどんな麻酔も、効かない。
「あの時は麻酔が効かない状態のまま実験を続けた。手足を寝台に縛り付け、背中を開き、脊髄を摂取した」
男が溜め息を漏らす。
凄惨な内容を口に紡ぐことに対してではなく、ただ話し疲れた様子で。
あまりに壮絶な内容に、さすがの雲雀も眉を顰めずにはいられなかった。
(橘が、…モルモット)
倫子の、その特異な過去を今自分は身勝手に暴いているのだ。
決して、触れられたくないであろう、その歪んだ記憶を。