AEVE ENDING
「…死んだの?」
雲雀の言葉に男が嗤う。
醜く歪んだ表情は、記憶を掘り出すことに抵抗を感じているのか。
「…いいや、そうではない。生きてはいるがしかし、手足を失った、ただの肉の塊になったのよ」
それは、突然だった。
多種に渡る薬の乱用と実験の負荷、乱暴ともいえる遺伝子の組み換え。
「脂肪という脂肪、筋肉という筋肉が収縮を繰り返し、骨格は曲がり果て皮膚は裂け、それらを粘膜が覆い、まるで肉団子のような生物が産まれた」
あれは、化け物だった。
物言わぬ実験の産物。
口も目も耳も、ピンク色の肉という壁に覆われ、顔すら、手足すら見当たらない。
···
ただ生きるための機能だけが、正常に作動した生き物。
「…あれは、不気味なものだったよ」
───恐怖した。
仕事柄、様々な屍を見てきた我々が、心底から恐怖したのだ。
「しかし奥田はすぐさまそれに聴診器をあて、生死の有無を確認した。レントゲンを取り、三次元で透視を行い、変化した肉体の復元を試みた」
七日、そう、七日間、手術は行われた。
七日後、我々の前に現れたのは、完全なアダムになった橘倫子の姿だった。
「あれの体に走る傷を見たか?」
男の問いに、雲雀は無言のまま頷く。
「あれはその時の傷よ。肉塊になった橘をパーツごとに分解し、人の形に整形するため、縫合した痕だ」
───まさしく、芸術品だろう。
男は嗤った。
雲雀は、不快感を抑えられない。
あの、傷。
縦横無尽に走るあのひきつりは、証明なのか。
『存在そのものが、神への冒涜なのです』
『浅ましい人間の手で造られた、紛い物』
(…っ何も知らない癖に)
───制作者と作品。
(うちに帰りたい…)
───出来損ないだ。
(…ひばり)
───君のオリジナルって、誰?
(…っいや、だ)
あぁ、橘が泣いている。
酷く鬱蒼とした気分だった。
胸の中に空いた穴が、どす黒く染まっていく。