AEVE ENDING





「…死んだの?」

雲雀の言葉に男が嗤う。
醜く歪んだ表情は、記憶を掘り出すことに抵抗を感じているのか。

「…いいや、そうではない。生きてはいるがしかし、手足を失った、ただの肉の塊になったのよ」

それは、突然だった。
多種に渡る薬の乱用と実験の負荷、乱暴ともいえる遺伝子の組み換え。

「脂肪という脂肪、筋肉という筋肉が収縮を繰り返し、骨格は曲がり果て皮膚は裂け、それらを粘膜が覆い、まるで肉団子のような生物が産まれた」

あれは、化け物だった。

物言わぬ実験の産物。

口も目も耳も、ピンク色の肉という壁に覆われ、顔すら、手足すら見当たらない。

  ···
ただ生きるための機能だけが、正常に作動した生き物。


「…あれは、不気味なものだったよ」

───恐怖した。
仕事柄、様々な屍を見てきた我々が、心底から恐怖したのだ。

「しかし奥田はすぐさまそれに聴診器をあて、生死の有無を確認した。レントゲンを取り、三次元で透視を行い、変化した肉体の復元を試みた」

七日、そう、七日間、手術は行われた。

七日後、我々の前に現れたのは、完全なアダムになった橘倫子の姿だった。


「あれの体に走る傷を見たか?」

男の問いに、雲雀は無言のまま頷く。

「あれはその時の傷よ。肉塊になった橘をパーツごとに分解し、人の形に整形するため、縫合した痕だ」


───まさしく、芸術品だろう。


男は嗤った。
雲雀は、不快感を抑えられない。

あの、傷。

縦横無尽に走るあのひきつりは、証明なのか。



『存在そのものが、神への冒涜なのです』
『浅ましい人間の手で造られた、紛い物』



(…っ何も知らない癖に)


───制作者と作品。


(うちに帰りたい…)


───出来損ないだ。


(…ひばり)


───君のオリジナルって、誰?


(…っいや、だ)



あぁ、橘が泣いている。

酷く鬱蒼とした気分だった。
胸の中に空いた穴が、どす黒く染まっていく。




< 370 / 1,175 >

この作品をシェア

pagetop