AEVE ENDING
雲雀が内にある暗闇を見据えていると、目の前の男が肩を揺らして笑い始めたた。
くつくつと少しずつ大きくなるそれは、不愉快のなにものでもない。
「そう…、奴は最高傑作だった」
震える声が嘶く。
地の底から沸き上がるような嘲笑が、室内を満たしていた。
不快、だ。
「…っそうだというのにアレは、体の破壊を畏れ無意識にアダムの能力にストッパーを掛けている!無能な精神のせいで我々の最高傑作が、愚者に落ちこぼれ扱いされるなどはらだ……ッ、ぐぁ、」
だから衝動のまま、男を蹴りとばした。
奥の壁に激突し、男は動かない。
そんな無防備な男から流れてくる色褪せた思考、は。
―――ジジ…。
(…古い、記憶だ)
橘、泣いていたの。
『もう、いやだ……』
先程巡った真白の拷問部屋に、裸のまま体を丸める、見知った姿。
その肩は小さく震え、嗚咽を飲み込んでいる。
───イタイ。
『ヒバリ…?』
傷だらけの橘の、無垢な眼が。
『それが、神様の、名前』
橘の唇が僕の名を単調に紡ぐ。
現時点の、柔らかな声色とは違う、酷く無機質な。
『身代わり…』
―――痛い。
「ねぇ」
床にうずくまったまま嗤い続けている男に、雲雀はそれでも穏やかに声を掛けた。
「君が知ってることは、これが全て?」
「ふふ…、まだ物足りないか。強欲な神もいたものだな…」
「いいから。どうなの」
苛立たしげに雲雀が吐き棄てる。
男はただ、嗤った。
「我々一介の学者に知らされることなどそう多くはない。神を満足させられないとは不甲斐ないが、仕方あるまい…」
(ただひとつ、言えることがあるなら)
「───橘倫子は、神を怨んでいる…」
あの、お人好しとも言える女が、たかだか細胞を摂取されただけの男を怨むと思うか?
まだ、なにかあるというのか。
「そうだ…神が今ここで得た事実など、ただの断片に過ぎない」
―――さぁ、暴くがいい。