AEVE ENDING
「っ」
痕を擦れば、倫子の肌がぞわりと粟立つ。
その様子に、雲雀の細胞が凍り付いた。
『肉塊になった時、なにを思った?』
(…なにを考えてるの、僕は)
眉間に皺を寄せる。
まるでこの小さな身体に惹かれるように、こうして手を伸ばしているなんて。
(惹かれる…?馬鹿じゃないの)
確かに興味深い人物ではあった筈だ。
この僕に唯一楯突く、殺したいくらい生意気なアダム。
『───このクソ野郎…!』
そうだ確か、一番最初にそう怒鳴りつけてきたんだった。
思い出して、口角が自然と上がる。
(ほんと…、馬鹿な子)
無鉄砲で考えなし。
感受性は人一倍。
間抜けで馬鹿がつくお人好し。
人を射殺すような眼をする癖に、その一瞬後にはすぐ、懐くような眼を向ける。
(だから、調子が狂う…)
「…、ん」
前髪から覗く瞼が、ふるりと震えた。
寝返りを打ってベッドから落ちかけた倫子の腹をスライス片手に支えながら。
「ばか…」
片腕で支えきる程度の重さで、吹けば飛ぶような軽さで。
『―――うあ、ぁああ、ぁ…っ』
耐えた、のか。
あの重圧に、拷問に、仕打ちに。
「…、」
無意識。
その反らされた首に、気付けば手を掛けていた。
とくりとくりと脈打つ血流が、指の平に伝わる。
「…ハ、」
息が漏れた。
ぞっとする。
脈が続く、生の音に。
高揚、した。
―――酷く、あぁ。
(…、まずい)
ぞわり、背筋に欲が這う。
馬鹿みたいだ。
この抵抗もなにも出来ない、無力な女を。
「橘……」
殺したい、なんて。
自らの手で潰してしまおうと、思うなんて。