AEVE ENDING
(今日も曇りだ)
首を傾ければ、鬱蒼とした空が視界に重く広がった。
(嫌いじゃないんだけどね)
この体になってから、真っ当な青空というものを直視できない。
そんな青空、今や見る影もないのだが。
それでも。
きっと見れないんだ。
(だって、綺麗、過ぎる)
人を恨むことを覚えたこの卑しい体には、この陽の差さない荒廃した世界で充分だった。
耳を傾ければ、隣室で雲雀が動く音がする。
それは酷く微かな物音で、まるで別の世界の住民みたいに聞こえた。
その音に惹かれるように自室の扉を開ければ、雲雀が朝の身支度をしている最中だった。
(…アミ、元気かな)
毎日顔を付き合わせていたルームメイトと、ここ数日顔も合わせていない。
(なんだかんだ言って、セクションでは他の生徒と紛れて会えないもんな)
あ、そういえば。
「…今日からどうすんのかな」
「なにが」
「セクション」
確か、数日は貧困エリアでの奉仕作業が予定されていた筈だ。
それなのに。
「燃えちゃったし…」
建物も資材も人も、全部、全部、全部。
声が窄まる。
まざまざと昨夜の情景が、脳内で再生される。
小さな手、笑顔、小さな身体、血だらけの半身、笑顔、痛ましい姿、笑顔、笑顔、笑顔、泣き顔、笑顔、笑顔。
「…、」
せり上がる後悔を堰き止めるため、倫子は息を止めた。
しかしそんな倫子に反し、雲雀はただ無感情に襟首のリボンを整えている。
「…どちらにせよ、早く起きなきゃ遅刻だよ」
それは二度目の忠告だった。