AEVE ENDING
(なに考えてる、ばか)
はたと気付くが、これは気付かなくて良いことだ。
雲雀に気を許せば、私はきっと駄目になる。
この体の痕を、忘れるわけにはいかないのだ。
―――私、は。
「ちょっと聞いてんの、君たち。先生怒るよ」
壇上に立つ奥田が、ざわつく生徒達をやる気なく叱咤した。
「昨日、君らが奉仕作業に向かった貧困エリアなんだけど、アレだよ、君ら聞いたら、ほんと泣いちゃうから」
ハンカチの用意ー!
その言葉に、倫子は息を吐いた。
無意識に蘇る血臭に吐き気が込み上げて、俯く。
奥田の意味深な言葉に、生徒達が水を打ったようにしん、と静まった。
「昨夜、何者かに襲撃されて、数人の生存者を除く住民全員が死亡。発生した火災によりエリア内は騒然、。人が生活してたような名残はゼロ。慣れない作業で苦労したのに、残念だったな、オマエ等」
奥田はふざけた調子で言い切ったが、しかし内容はふざけて聞き逃せるものではない。
数秒後、その言葉を理解したアダム達は再び騒然となる。
「何者かに襲撃…って、一体どういうこと?」
「あんな大規模なエリアを火の海にしたって―――、アダムの仕業なのか?」
情に流され泣く者もいれば、真相が明らかにならない事件について討論を始める者もいる。
塵が一掃されてラッキーだと笑う者も、少なくない。
ざわつくホール内。
壇上に立つ奥田はそんな生徒達の反応をやる気なく眺めている。
騒ぎになることは当然だが、しかし伝えないわけにもいかない事実だ。
いくら外界とは隔絶された空間とはいえ、箱舟の外でも相当の騒ぎになっている。
いつか耳に入るのならば、尾ひれが付いた噂話ではなく真実を知らせるほうがいい。
そしてなにより、奥田が言いたかったのは、そんなことではなかった。