AEVE ENDING
朝比奈が小さく悲鳴をあげるが、しかし彼女が危惧したようにはならない。
渾身の力で振り下ろされた梶本の脚は武藤の左の掌だけで止められていた。
それも、顔面直撃寸前に。
普通ならば手で止めようとしても脚の勢いを鈍らすだけで、完全に止める事など不可能だ。
(左の掌に一気に力を集中させて、盾の力を何倍にも引き上げたんだ)
これは余程の瞬発力と集中力がなければできない芸当である。
「…よし、よく止めたな」
梶本が振り下ろしていた脚を引き抜いた。
それまでずっと三十度の角度で右踵だけで立ち、宙に静止していたのだ。
梶本が終わりを告げると、整列していたアダム達から歓声が湧き上がった。
時間にしてみれば随分と短いが、組み手などそんなものである。
「見た通り、今から君達にしてもらうのはペア同士で行う組み手だ」
その言葉にざわつく生徒達。
───ペア同士で闘う。
幾らパートナーとはいえ、関係は叩けば崩れる砂上の城。
この短期間で、心底から信頼しあえるわけもない。
疑い出せば止まらないこの疑心暗鬼の関係で、組み手をしろと云う。
格闘家の組み手とは違う。
サイコキネシスを扱うアダムの組み手だ。
念力に慣れない者は暴走する可能性があり、下手に作用すれば大事故になりかねない。
「脅えるな。相手を信頼することを強要しているわけではない。生身の人間を相手にして、念力操作を緻密に練り上げることが目的だ」
梶本が戸惑っている生徒達を一喝する。
「…殺し合うつもりで行けよ。アダムの組み手は、無事には済まん。───特に西部アダムはな」
くつりと嗤う。
東部箱舟贔屓はここでも存分に発揮されるらしい。
(いやな奴…)
その場にいた西部アダム全員の呟きである。