AEVE ENDING
「ついでだし、約束の稽古でもつけてあげる」
僕に、ついてこれたらね。
雲雀が皮肉げに笑えば、倫子は作り笑いで返した。
完全にこちらを舐めくさったその眼は、倫子の闘争心に火をつけたのである。
(…もともと、運動神経はそんなに悪くない)
冷静に、自分の武器になるものを考えてみる。
───それに私は、人の殺め方を知ってる。
それは決して、自らが欲しがったものではなかったが。
倫子の呼吸が自然と深くなった。
それに気付いて、雲雀は口角を釣り上げる。
自然と空いた周囲の間隔は、好都合の広さ。
倫子が構える。
飛び込む姿勢。
待つ性分でないのは、確かだ。
「…おいで」
甘く囁けば、雲雀の望み通り飛び込んできた。
タンッ。小気味良く床を蹴り、こちらに向かってくる小さな体を雲雀はなにをするでもなく直立で眺める。
「…っ、」
倫子の右腕が真横から飛び出した。
スピードに乗って半ば投げ出されたように繰り出されたそれを、雲雀は一歩後ろに下がるだけで避ける。
「…っな、」
「アクションが大きい。減点」
その言葉に、倫子は苛立たしげに鼻に皺を寄せた。
ふ、と一泊置き、空振った腕を勢いよく雲雀に向かい突き出す。
しかしやはり、雲雀はそれを難なく避けた。
しかしそれで倫子の攻撃が終わったわけではない。
雲雀が拳を避けるのを見計らい、隙だらけの左脇腹に蹴りを入れる。
バシッ。
「っ、!」
入ると思った蹴りは、雲雀の右腕に止められた。
「それに、…簡単に捕まる」
雲雀が簡潔に指南する。
現時点で右腕を雲雀の左手に、右脚を雲雀の右手に絡めとられた形になっている倫子は、その体勢のまま暫し考えるように唇を閉じた。