AEVE ENDING
「…そうだね。僕に傷を負わせたのは、君が初めてだよ」
「え、マジで!?」
雲雀の最高級の褒め言葉を受けて、倫子は素直に喜んだ。
それを眺めた雲雀は、先生さながら満足げだ。
「───俄然やる気出たでしょう。きなよ」
「ぶっ潰してやる!」
互いに腰を低く落とす。
狙うは雲雀の心臓――いや別に、胸を触りたいわけじゃない。
雲雀が人指し指をくいくいと曲げる。
来い───、の合図。
「橘ぁああ!」
ビクッ…。
どこからか叫ばれた怒声に驚いて、雲雀に向かって飛び出していた倫子の体が勢いよく跳ねた。
「誰が修羅と組めと言った!?貴様にそんな資格はない!」
ヌ、と伸びてきた手が、倫子の襟首を掴む。
「ぐ、ぇっ」
そのまま背後に引き寄せられて、雲雀から引き離された。
見上げれば、不機嫌に顔をしかめた梶本の顔。
「お前ごとき落ちこぼれに修羅の相手が務まるか。お前は武藤と組め」
不機嫌から一変、にたりと笑う梶本に首根っこを掴まれたまま、倫子は眉を顰めた。
「いやです」
「お前の意見は聞いとらん。朝比奈、お前が修羅の相手をしろ!」
「はああ!?」
なに、ソレ。
せっかくいいとこだったのに、と思わず頭に血が昇る。
雲雀を見やれば、組み手を中断されたせいか倫子同様、不愉快そうに眉を顰めていた。
「…雲雀さま、よろしくお願いします」
そんな雲雀に朝比奈が素早く駆け寄る。
ほんのりと頬を染め、緊張気味に。
(いやあれ、マスコットの間違いだろ…)
「朝比奈はアレでもこの西部のトップだからな。修羅の相手に役不足なのは変わらないが、貴様よりマシだろう」
梶本がその馬面にいやらしい笑みを張り付けて言う。
殴りたい。
「念力に長けた武藤は、素人でイヴの貴様にはピッタリだ」
せいぜいしごかれてこい。
そのまま武藤の方へ放り投げられた。
比喩ではなく、放物線を描いて身体が宙を飛ぶ。
「…、ぎゃっ」
着地点には武藤。
受け止めてくれる気配はなかったので、そのまま顔面から床へ着地することになった。