AEVE ENDING
(…最悪。鼻血出た)
床から顔を上げると、ぱたりと赤い滴が落ちた。
鼻をぶつけた強烈な痛みに涙まで込み上げる。
「…は、浮遊も使えないのかよ」
突っ伏する倫子に武藤がそう投げつけてくる。
(……今、なんつった?)
顔を上げれば、侮蔑の色を含んだ鳶色の眼とかち合った。
それが倫子を鋭くも不愉快げに射抜く。
(はっら、立つなぁ…コイツ)
理由が解らないからこそ。
「あんたにそんなこと言われる筋合い、ない。ウザい」
起き上がる。
また鼻血が垂れる。
それをズッと吸い込んで、倫子は武藤に向き直った。
「なんでお前とやんなきゃなんねーかなぁ…」
鼻から流血している倫子から、武藤は苛立たしげに視線を逸らした。
本気を出せないからか、朝比奈とイチャイチャできないからか。
どっちにしろ殴りたい。
「―――…っ!」
苛立ちに首筋を痙攣させた倫子を認めた瞬間、武藤の首に一線の血が滲んだ。
武藤の前にはいつの間に距離を縮めたのか、中腰で屈んだ倫子の姿。
「…油断してんな。窮鼠、猫を噛む、だよ」
間近のそれに驚き目を見開いていたままの武藤に、腕をその首に伸ばしたまま倫子は静かに言い放つ。
「…やるじゃん」
武藤は爪で抉られた傷口から流れる血を笑顔で拭い去った。
首筋の、丁度血管が走る位置。
(…狙ったのか、偶然か)
武藤の機嫌が復活した。
どちらかといえば、雲雀と似た嗜好者である。
面白そうならなんだって良い。
やり甲斐のある娯楽なら尚更。
口角を釣り上げた武藤を、倫子は雲雀にするように睨み返した。
(…態度コロコロ変えやがって、変態が)
こうなれば雲雀は後回しだ。
先ずはこの武藤をギャフンと言わしてやる。
「来いよ、落ちこぼれ」
「その落ちこぼれに泣け、カス!」