AEVE ENDING






―――橘が、やる気だ。


雲雀の視界に入った倫子は爛々と目を輝かせ、猪さながらに武藤に向かっていた。
凄まじい乱撃を繰り出すが、しかし武藤には当たらない。

(あぁ、馬鹿。真っ正面から突っ込んでどうするの)

それじゃあ武藤には通用しない。
武藤は向けられた攻撃、つまり相手の力をうまく受け流して利用するタイプだ。
真っ正面から突っ込んでも、うまくかわされて反撃を喰らうだけである。

朝比奈の相手を最小限の動きでかわしながら、今にタコ殴りにされるだろうパートナーを観察している自分が大変馬鹿馬鹿しく感じたが、しかし見ていて厭きないのは確かだった。

倫子のそれは、攻撃を仕掛ける度に動きが素早くなる。
そして学習していく。


(ほんと…、野生動物みたい)

本能に任せて、闘いながら上達していくのだ。

思わず口角が釣り上がる――その微笑に朝比奈が赤くなったことには気付かない。

倫子が駆ける跳ねる飛ばされる走る殴る殴られる蹴られるまた、跳ねる。

繰り返し繰り返し、少しずつ動きが良くなっていく。


(でも、)

少しずつ少しずつ、倫子だけでなく、武藤の動きも速くなるのだ。

(当たらない)


パンッ。

朝比奈が繰り返した空気鉄砲のような球が雲雀の頬を掠める──否、掠めかけた。

朝比奈がびくりと肩を揺らす。
こちらに傷を負わすことを畏れているらしい。

「…本気できなよ」

そちらを一瞥して言い放てば、朝比奈は恥じたように目を伏せた。

(つまらない…)

こんな眼じゃ、なくて。

視線が倫子へと向かう。
ごく、自然に。

(…腹立たしいけど)

視線の先。
少し目を離した隙に、ボロボロになっている倫子の姿。
反する武藤は、衣服の乱れすらない。


(…あ、また殴られた)

けれど眼、は。

(───退かない)

殴られた反動に顔を逸らす。
しかし、倒れない。

撃たれ強い。

痛みにも耐える。

それは、あの過去の。


(…不要な産物か)





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