AEVE ENDING
隙を突かれた武藤の蹴りを、まともに鳩尾に喰らう。
ただの蹴りではない。
蹴りの圧力に更に念力を加えた、攻撃力は鉄の棒で殴られるほどのもの――それ以上だ。
小さな体は清々しいまでに直線を描いて吹っ飛び、盛大な音を立ててホールの壁に衝突した。
バアァンンッ…。
その激しい衝突音に、全員が組み手を中断しそちらに視線を向ける。
壁に張り付けられた状態の倫子が、床から二メートルほどの高さから壊れた人形のように落下した。
助けに入る者は、勿論、いない。
衝撃で気を失っているらしい倫子は、受け身を取ることなく床に衝突した。
―――動かない。
それに武藤が駆け寄る。
手を差しのばすためではなく、トドメを刺すために。
全員が固唾を飲んでそれを見守っていた。
落ちこぼれが痛めつけられるこのシーンを愉しんでいる感は否めない。
梶本に至っては、教職であることも忘れさも愉快だと言わんばかりに口許を歪めている。
「……ぃ、っ、」
倫子が意識を取り戻した。
蹴られた鳩尾が痛むらしい。
起き上がれず、鳩尾を抑えながら身を丸めている。
縮こまった体が、痙攣するように震えていた。
「橘…」
朝比奈が青ざめた顔で息を飲む。
さすがにこの私刑を愉しめる神経は持ち合わせていないらしい。
しかし朝比奈の思いは届かず、横倒れている倫子に武藤の手が伸びた。
傷んだ髪を鷲掴み、力の抜けた身体を無理矢理立ち上がらせる。
「…っ、は」
荒い呼吸と、ぶらりと弛緩した肢体、苦痛に歪んだ表現は、見物者から見れば滑稽であろう。
観客から嗤いを含むさざめきが起こる。
「見てよ、あの顔。チョー笑える」
「武藤も残酷だよな。イヴを相手に」
「かわいそー」
「自業自得だろ。弱いのが悪いんだ」
―――醜悪、だ。
この声は橘に、届いているのだろうか。