AEVE ENDING





「―――橘、」

流れてきた思考に、思わず呟く。

その痛みに、胸を痛めているのだろうか、ずっと。


(…だから、邪魔しないでよね、雲雀)

倫子が雲雀を横目に見た。
口許にはやはり、笑み。
それに対し、雲雀も麗しい微笑を返す。

(僕のパートナーなんだから、勝つのは当たり前でしょ)

だから早く済ませなよ。
やる気のない飼い猫の相手は、もう懲り懲りだよ。

伝えれば、倫子が声を上げて笑った。
突然湧き上がったその反応に、再びホールがざわつく。


「スパルタで困るよ、…ったく」

そう言いながら笑っているのだから不気味である。
その余裕の態度に、武藤の片眉が不機嫌に跳ねた。

(こっちが明らかに優勢だっつのに、なんだよこの圧迫感…)

まるで修羅と面向かってる時と同じような、感覚。

髪の隙間から覗くその眼は酷く好戦的で、───退かない。


(…修羅が気に入るわけだ)

こちらを喰い殺そうとする、血に飢えた獣の眼。

だからといって、そう簡単に形勢逆転されるわけにはいかないのだが。


(おもしれぇ)

倫子の腕が上がる。
それがゆらりと揺れて、自分の髪を鷲掴んでいる武藤の手首を掴んだ。

「、…」

爪を立てられるが大した痛みじゃない。
武藤は力を緩めない。

「んなつまんねぇ手じゃ、幾らたっても抜け出せねぇぞ」

武藤が嗤えば、倫子もさも可笑しそうに笑った。

「知ってる」

慣れたよ、意地悪い男が傍にいるから。

内心で毒づけば。


(ちょっと、それ誰のこと?)

すかさず雲雀が思考を飛ばしてくる。
その勢いに、倫子は思わず吹き出した。

(あんた以外いねーだろ)
(…後でお仕置きだよ)



「…ヤダよ」

その隙に、倫子は素早く武藤から離れた。

痛む腹を無視し、脚を踏ん張ってそのまま武藤の腹に向かって跳躍。




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