AEVE ENDING
低い姿勢のまま肘を振り上げ、仕返しとばかりに鳩尾を狙うが。
「甘い」
それもあっさりと止められた。
しかも触れた場所から電流を流されるというオマケ付きである――倫子の未熟なものとはちがう、神経を痺れさせる程度の微弱な電流だ。
「…残念、こんなもん、効かないよ」
バチリとその電流を弾き飛ばした倫子は、そのまま武藤の足を払いのけた。
(こんな微弱な電流じゃ、私の神経を麻痺させられない)
毎日毎日、頭がイカれるほどの高圧電流を流されていた時期があったのだ。
その研究後には、まるで感覚を失ったかのように電流慣れした体が出来たわけで―――あの忌まわしい研究のお陰だと思うのは。
「…癪だけど」
バランスを崩した武藤に倫子が腕を振り上げる。
握った拳に、やはり過度の静電気を纏わせて。
まともに顔に喰らえば、頬骨が砕ける。
―――決着がつく。
ホールの全員が、今やふたりの攻防に固唾を飲んでいた。
梶本も、まさか落ちこぼれの倫子がここまで健闘するとは思わなかったらしい。
間抜けに口を開いたまま、二人の組み手に目を奪われている。
そして倫子の拳が武藤の顔にぶつかる───。
「……っ、」
その予期される惨劇に、朝比奈が目を閉じた。
ゴッ…。
「…っ、……っ」
鈍い音が響く。
そしてなにかが、倒れる音。
しんと静けさを増した辺りに、朝比奈がゆっくりと瞼を上げる。
開かれた視界に飛び込んできたのは。
「…ドンマイ」
息を切らしながらも不敵な笑みを浮かべる武藤の姿に、その足元に膝を着く倫子の姿。
倫子は焦げた拳を震わせ、肩で息を繰り返していた。
「…ま、健闘はしたね」
それを見て、雲雀は冷静に言い放った。
組み手は、武藤の勝利である。