AEVE ENDING
ざわめきが再び湧き上がる。
静寂から徐々に滲み出すそこには、震えるような歓声。
それが向けられるのは勿論、勝者·武藤であり、当然敗者の倫子には侮蔑の嗤いが向けられた。
「無様だな」
「勝てる気でいたのが恥ずかしいよね」
「イヴのくせに調子に乗ってるからよ」
「やはりあの女は、雲雀様のパートナーには相応しくない」
最終的には納得のいく結果だったことに、梶本は可笑しそうに口許を歪めている。
倫子が痛めつけられたことが楽しくて楽しくて仕方ないらしい。
朝比奈は朝比奈で、複雑な表情を浮かべていた。
倫子は、動かない。
「オイ、橘」
膝を着いたまま微動だにしない倫子を訝しみ、武藤が声を掛ける。
荒い息を繰り返す度、その角張った肩が上下していた。
しかしそれでも、顔は上げない。
力が込められた腕は痺れたようにひくひくと痙攣を起こしている。
静電気を蓄電させたことが原因か、その拳は赤く爛れ痛々しい。
しかしその傷口に、武藤は眉を顰めた。
決して痛々しいからではなく。
(傷が、肩まで…)
爛れた拳からひび割れるように肩まで続く細かい無数の切り傷。
静電気で起きた傷ではない。
先の闘いでの傷から綻んで古傷が浮き出てしまったような、傷、傷、傷。
元在った傷が皮膚を突き破り表れたような印象を受ける。
「おい」
ゼィゼイと息を繰り返す倫子と視線を合わせようと、武藤は腰を折った。
「…、」
それに気付いた倫子が、ふ、と視線を上げる。
それを流れで直視してしまい、武藤は息を飲んだ。
(───う、ぉ)
その、眼、が。
ド、と静かな波を真正面から受けた。
睨むとも見つめるとも、形容しがたい。
まるで。
「…なにさ」
倫子の不機嫌な声が耳につく。
そこでやっと、武藤は我に返った。
見れば、いつもと変わらない眼が武藤を見つめている。
不機嫌、な。
(アレ、錯覚?)