AEVE ENDING




「…いや、」

歯切れの悪い武藤に眉を顰めつつ、問い詰めることでもないと倫子は故障した拳に視線を移した。

「―――あぁ、もう、信じらんない…」

気に喰わないとまざまざと顔に張り付け、爛れた拳を睨みつけている。

(…施術痕が全部、開いちゃってるよ)

拳の静電気による亀裂が、古い施術の痕を開いてしまったらしい。
それこそ、枯れた大地に皹が走るように。


「なぁ、おい、この切り傷…」

そういえば、と武藤の指が伸びる。
その不可思議な傷が走る腕へ、無遠慮に。


「…っ、」

しかしその指は宙を切った。
倫子が慌ててその腕を退いたからだ。
それによって、妙に気まずい空気が流れる。


「…んだよ、見せろよな」

武藤が苛立たしげに言う。

「いやだ。見るな触るな来るな、死ね」

負け犬の遠吠え。

「最後の、明らかに脈絡なくねぇか」

うるさい。
頼むから気にするな。


(触られたくない)

傷にも、傷の由縁にも。


「いいから見せろ。なんでそんな…」

武藤がもう一度、素早く手を伸ばす。
倫子が反応するより、早く。

「…やめ」

武藤の指が倫子の右腕に触れる───寸前で奴は現れた。


「馬鹿やってないで、医務室に行くよ」

言い様、武藤を蹴り飛ばし、倫子の襟首を掴む。


「ひ、ば…」

そこに立っていたのは、パートナーである雲雀だった。

「組み手は君の負けで終わり。もういいでしょ、行くよ」

倫子が問いかける前に、雲雀は倫子を連れて騒然とするホールを後にした。


「雲雀さ、ま…」

朝比奈は雲雀の予想外の行動に目をひん剥き、武藤は壁に激突して目をひん剥いていたという。






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