AEVE ENDING





西暦二○九六年―――。

先の世界大戦による文明の崩壊、人類絶滅の危機、大気海洋汚染、地球規模の環境の劣化。

絶望的な壊滅を経て、人類は再び文明に火を灯す。
しかし、海には先の文明の名残が沈み、汚水や物資に得体の知れぬ粉塵、汚水による汚染、そして緑の育たない殺伐とした大地。
美しかった星の姿は、今や見る影もない。

もたらされた急激な変化は、環境·文明のみならず、人類にまでその触手を伸ばしていた。

大戦にて使用された生物兵器。それにより、DNA配列が人類のものとは全く別のものへと変化する新たな病症。

その病症が、人類を変えた。



―――Adam(アダム)。

彼らは第一級危険患者の扱いを受け、例外なく新人類収容所―――「箱舟」へと収容されることが定められている。




(―――人類初の「アダム」を応えなさい、ミス橘)

ミスレイダーが口も動かさずに私を指名した。
真っ白な一室に等間隔で並べられた量産型のデスク。そこについていた頬杖をとき、教壇に佇む女講師に目を向ける。
耳鳴りがするほど静かな空間に引き込まれないように、ごくりと息を飲み込んだ。

(…日本の山陰地方で政府調査員に発見された、幾田慶造です。享年、九十一歳)

ノートを目で追いながら、私は一分の隙もなく閉じられた唇で応える。
ミスレイダーは小さく頷くと、私から視線を外しておおよそ教室には見えない白い室内を見渡した。
正確には、真っ白な箱に詰め込まれた生徒達を。

(宜しい。今のテレパスが読めた者は?)

ミスレイダーが私以外の生徒達に語りかける。

しかしやはり、その口は動かない。



―――ゴクリ。

生唾を飲む。

判決の刻。



(聞こえませんでした)
(僕も)
(私も)

クラス全員の思考が脳を直接揺さぶるようにガツンと響いてきた。


(…あぁ、またダメだった)



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