AEVE ENDING
「ほら、手を出して」
雲雀がベッドに腰掛け、無人だった医務室から失敬した消毒液を手にした状態で言う。
そんな雲雀と向かい合う形でベッドに座り込む倫子は、怪訝な顔で彼を見ていた。
ホールから戻り、互いの自室に戻ってきて、今に至る。
(なんで急にこんな、気が利く…っていうか世話焼きっていうか…)
優しい雲雀が気持ち悪い。
それは口が裂けても言えないが。
そうしていつまでも腕を差し出さないでいる倫子に痺れを切らした雲雀が、乱暴にその手を取った。
「いっ、」
「我慢」
呻いた倫子に雲雀は容赦なく言い捨てる。
しかし傷めた腕を治療するその綺麗な指は、思いの外、優しく気遣いに溢れていた。
じわりじわりと傷に滲みる消毒液に、倫子の体がびくびくと揺れる。
「殴られるのは平気なのに、これは痛いの?」
雲雀のその言葉に、倫子はムッとした。
「別に平気じゃねーし」
不機嫌に抗議するが、雲雀に通用するわけもない。
「ほんとにタフだね」
「…悪いかよ?」
「…別に」
無表情の雲雀、不機嫌な倫子。
丁寧に血液が拭い去られた剥き出しの傷口に、充分に消毒液が染み込んだのを確認すると、雲雀は包帯を手にした。
丸められている包帯を、ゆっくりと解いていく。
(キレーな指…)
先程の組み手で少しばかり火傷を負わせてしまったが、それでもその白魚のような指は損なわれない。
(…勿体ねーの。折角こんな綺麗な指してるんだから)
人を貶めるには、似合わない手だ。
なにかを愛でるに、最も適した手であるのに。
そんなことをぼんやり考えていると、包帯を巻く手が不意に止まった。
「?」
首を傾げる。
「…この痕、塞がるまで時間が掛かるよ」
渦中のその指が、施術の痕に触れた。
「…っ」
びくり。
敏感な皮膚の線が指の腹に擦れて、首筋を走る神経が跳ねる。
「…なに?」
その過剰な反応に、雲雀が窺うように倫子を見上げてきた。
(う、ゎ)
長い睫毛がこちらに向けられる。
真っ暗な歪みのない、瞳。
―――見透かされる。