AEVE ENDING
「ベッドへ」
浅い息を吐き続ける倫子をベッドに横たえると、奥田がすぐさま聴診器を手にして現れた。
シャツをすぐさまはだけさせ、汗ばむ胸に聴診器を当てる。
トットットットッ…。
心音が乱れていた。
「…腕を」
奥田が包帯を取れば、無残に赤く腫れ上がった腕が覗いた。
眼を凝らさなければ見えないほど薄かった施術痕は、今や赤黒く腫れあがり、蚯蚓が這うようにその右腕を侵している。
すぐさま白いシーツに赤が滲んだ。
あまりに濃い血臭に、雲雀も顔を顰める。同様に、奥田も。
「…うーわ、ちょっとこれなにしたの」
血染めの包帯を床に投げ捨て、奥田は苦笑した。
「俺が縫った痕、全部開いてんじゃないの。また傷が目立つなぁ、こりゃ」
頑張ったのになぁ、俺。
端から見ればあまりに暢気な独り言だが、しかしその間も手は休まない。
ベッド脇のデスクに薬品を並べる。それから針と糸。
素人から見ても、なにをするかは明白で。
気付いた雲雀が抗議する前に、奥田が声を上げた。
「雲雀くん、倫子の体抑えてて」
「……冗談でしょ?」
まさか麻酔もなしに縫合を?
いくらなんでもそんな不快なもの、見たくない。
「───まさか。俺はいつでも本気だよ」
しかし雲雀の思い虚しく、顔を上げた奥田は真剣そのものである。
「教授に話は聞いたんでしょ?この子が被験者だってこと」
憮然とする雲雀に、奥田は追い討ちをかけるように意地の悪い笑みを向けた。
「短期間でいろーんな薬漬けにしちゃったから、麻酔もなんも効かねーんだよ、こいつ」
精神麻酔―――催眠術をするにしたって、いま倫子は寝てる状態だから施せない。
だから素早く縫うしかない。
「それに、あまりちんたらしてると、肉体の収縮が始まってまた肉団子になりかねないから」
───まるで脅迫のようだ、と雲雀は思った。
こんな面倒事に巻き込まれたことに対する不愉快感をよそに。
(…見捨てるという選択肢は)
「雲雀くん、早く」
奥田の催促に溜め息を吐く。
雲雀は無言で、ひくつく倫子の体を押さえ込んだ。
(…目が覚めたら、散々いたぶってやる)
そう堅く、胸に誓いながら。