AEVE ENDING
「意識戻ったら、ものっすごく暴れると思うから。あんまり手が付けられないようなら殴ってもう一度気絶させて」
奥田は言いながら、倫子の右腕に糸の繋がる針を刺した。
隙間なく埋まる細胞に、ぷつりと穴を空けられたその僅かな感触に押さえつけた肩が震える。
ベッド上の倫子は、まるで追いつめられた小さな獣のように、為す術もなく身を委ねていた。
針が傷口の下を潜る。
針の頭に付けられた糸が、それと同じ軌道を辿った。
「……、っ、」
右腕が身じろぐ。
それを乱暴に制し、雲雀は奥田の手元を傍観する。
次々と、人の腕に糸が走ってゆく。
見ていて気持ち良いものではないのは確かだ。
「…っ、ぅ、ああ…!」
倫子が勢い良く瞼を上げた。
真上にある雲雀の顔を確認したかと思えば、は、と息を吐く。
「…っぃ、ぁ゛、」
しかしすぐに、腕の痛みに気付き顔を歪める。
酷い痛みに犯された右腕になにが起こっているのか。
それを確認しようと体を捩らせた倫子の顔を、雲雀は動かないよう片手で固定した。
「見ないで。痛みが増すだろうから」
顎を押さえつけ、そのまま荒い息を続けさせると、倫子の眼にじわりと涙が滲んだ。
「…っい、ゃ、」
泣きじゃくる寸前。
滲んだ涙が飽和して頬を流れてゆく。
相当な痛みでありながら、暴れようとはしない。
震えながら、けれど耐えようと、しているのか。
「…偉いね、倫子。そうだよ。動いたらまた独房に入れられちゃうよ」
奥田が冷徹ともいえる声色で言い放つ。
途端、倫子の体がぶるりと震えた。
(研究時の───)
一瞬垣間見えた脅えに、雲雀は目を見開く。
その根の深さに、彼女は。
「…橘」
虚ろに瞼を開けた倫子の耳元で名前を呼ぶ。
そうしなければ、きっと届かない。
ゆらゆらとさ迷っていた視線が、雲雀を認めた。
やはり痛みに歪んだままの、泣きそうな眼で。
(あぁ、もう)
やめてよ、その眼。
頭がおかしくなりそう。
……ひば、り。
唇がそう震えた。
音にはならなかったが、確かに。
(雲雀が、居る)
ほんの少しだけ、脅えが引いた。
顎を押さえつける雲雀の手に、無意識に頬を擦り寄せて。