AEVE ENDING
かくりと倫子の体から力が抜ける。
見れば、再び気絶していた。
同時にぶつりと音を立てて切られた縫合の糸。
「ふぅー、…つっかれたぁ。こんな集中したのなんて久しぶり」
相変わらず間の抜けた声で話す奥田に、雲雀は不愉快を禁じえない。
「雲雀くん、ゴクローさんね。帰っていいよ」
その言葉に、更に。
「…橘は、」
「あとは俺がやるよ。汗掻いたから体も拭いてやんなきゃだし。あ、腕はもう大丈夫。こいつタフだから飯にガブつけばすぅぐ治るよ」
「…は?」
体を拭くの?
誰が?
「え、なに?俺、なんか変なこと言ったっけ」
思いがけず不機嫌な声を発した雲雀に、奥田は目を丸くする。
そのきょとんとした視線に、雲雀はハッと息を飲んだ。
(…あぁ、なに、馬鹿、な)
無意識のうちに吐き捨てた言葉はしかし、もはや回収は不可能である。
ただでさえ勘が鋭い馬鹿――奥田を相手に。
「…はっはーん」
最悪。
「もしかして雲雀ちゃんさぁ、倫子の体拭きたいのぉ?」
下弦の三日月に歪んだ眼が、殺したいほど、ムカつく。
「あなたに任せたら、橘が孕みそうだから」
普段より平静ではない心中をおくびにも出さず、雲雀は冷ややかに言い放った。
睫毛に綺麗に彩られた眼には、軽蔑。
「…ちょ、いくら俺でも倫子には手ぇ出さないよ?俺今、本気で愛してる子がいるんだから」
「あぁ、そう」
「ちょー!なにその冷ややかな目!俺、仮にも教師だよ!?そんで君は生徒!払うべきは軽蔑じゃなくて敬意でしょ!」
血濡れた指を拭いながら、奥田は雲雀に喰い掛かる。
しかし雲雀の目に宿る侮蔑の念は深まるばかりで、敬意が芽生えることはなさそうだ。
「煩い。橘が目を覚ますよ」
「なにその優しさ…。その一割でいいから俺に、」
「死ねば」
神も仏もねぇよ…。
冷酷な修羅の攻撃に、奥田は涙ながらに奥歯を噛み締めた。