AEVE ENDING
「どういう事ですか」
凛と鳴く涼やかな声が響く。
しかしその声色には微かに苛立ちが含まれ、普段、彼女を包む穏やかな空気は今はなかった。
「…と、言いますと?」
息巻く女性と向かい合う形で革張りのソファに腰掛けた幾田桐生は、相も変わらず微笑を貼り付けたまま足を組み替えた。
東部箱舟の敷地内。
理事である幾田が個人的に所有する離れの一室である。
整備された庭には四季を通じて楽しめる様々な半人工植物が植えられており、桐生のプライベート菜園も担っている。
窓の外に植えられた紅葉が、風に揺れてさわさわと鳴いていた。
戦争を後にした国内で、最も被害の大きかった中心部。
その中心部において、最も緑が美しいとされる場所であった。
普段は麗しい花々を愛でに訪れる彼女はしかし、今はその紅葉の哀愁すら目に入らぬようである。
「なにを白々しい!雲雀さんのパートナーが、あの橘倫子だということです!」
この女性が声を荒げるなど滅多にないが。
なるほど。
やはりどれだけ美しかろうと、抑えられた感情を露わにすれば綻びは生じる。
普段ならばどこにあるのかと疑いたくなる皺が目尻に寄り、柳眉は顰められ、いつもなら穏やかに弧を描いている唇はわなわなと震えていた。
(やはり完璧な人間など、そうはいないか…)
少しばかりの失望と目前に座る女性の怒りにあてられ、桐生は小さく溜め息を吐いた。
「…そう言われましても、現在、彼は西部箱舟にてセクションに参加しています。セクションに関する全ての権限と決定権、責任は西部にある。休養を取っていた私が知る由もないでしょう」
完全に呆れかえっている桐生の声色に、麗しい女性は握った白い拳を震わせた。
「幾田殿!」
あまりのことに声が裏返っている。
普段の温厚さはどこへ消えたか、なかなか気性の荒い人物であるらしかった。