AEVE ENDING
「…橘」
体中の傷にしたって、変化した細胞にしたって、雲雀を跳ねつけようとはしないのだ。
(ならいいか…、いいよね)
「橘」
は、と顔を上げると、眉間に深く皺を寄せた綺麗な顔が目に入る。
「…なに?」
「早く食べたら。冷めるよ」
「…うん」
「なにその緩んだ顔。殴りたいんだけど」
―――だって、雲雀。
あんたの口から「冷めるよ」なんて言葉が出るなんて思わなかったから。
「雲雀、その野菜スープ、ひとくち頂戴」
「厚かましい」
言いながらちゃんと器を寄せてくれる手とか、左手でうまく食べられない私に合わせて、ゆっくり食べてくれてるとことか。
(スープ、美味しい…)
これまた体に良さそうな野菜スープだ。
あっさりしてるし、薄味のそれは切れた唇にもそう滲みない。
「スープ美味しいよ」
「そう」
「雲雀」
「…なに?」
相変わらず、素っ気ないけれど。
―――でも。
「ありがと」
なんだかんだ言って助けられてばかりだ―――その代償というように殴られたりしてるけど。
「…別に」
照れたようには見えないが、ほんの少しだけ冷たい声が暖かくなった気がした。
(…あんたはもっと愛されるべきだよ、雲雀)
私が望むには、少々お門違いではあるけど。