AEVE ENDING
―――数刻後、猫まんまもレバーもスープもきれいに平らげて大満足の倫子に、紅茶を啜っていた雲雀が顔を上げた。
思いの外、神妙な表情をしている雲雀に首を傾げる。
その躊躇いのない眼は、じ、と倫子の頭上を見上げていた。
上には天井しかない筈だが―――。
「…橘」
「なに?」
呼ばれて尋ねても、すぐには答えない。
なにかを「視て」いるように、雲雀は可憐な睫毛を何度か瞬かせた。
「…そこから退いたほうがいいよ」
―――は?
「なにそれ。どう…」
いう意味、と続く言葉は爆音に掻き消された。
ド、ッドン…。
「…っ!?、…っ!」
耳をつんざくような破壊音は、なんと真上から。
同時にパラパラと天井の欠片が倫子目掛けて降ってくる。
轟々という風が抜ける音と、土煙―――天井が抜けたらしい。
幸い、倫子と雲雀を避けて周囲一メートル内に生徒はいなかったので被害は少なくて済むだろう。
雲雀においては、まるで欠片が意志を持って避けているかのように被害がない。
理屈は解らないが、さすがである。
パラパラと火山の灰さながらに降り積もる、薄い陶器のような繊維。
何事かと目を細めて見上げると、天井の欠片、それと同じく降ってきた男が、いた。
ちらりと見えた硬そうな金髪。
目尻に引かれた深い紅、派手な着流しに、古臭い日本刀。
(…見覚えがある)
馬鹿丸だしにゆるんだ顔が笑っている。
こちらに向かって両手を広げ、頭部を下に、真っ逆さまに落下してくる、それは。
「たーちばな~ん!」
「ギャァァァァアアアサルゥゥウウウ!!」
…ボカンッ。
爆音と共にもうもうと立ち上がる煙。
長身の大男に見事に潰され、白目を剥く倫子。
その倫子に抱きつく形で落下してきた男は───知り合ったのはそう昔でもない、北の島頭領、真醍だった。
相変わらずのサルである。
「なにしにきたの、サル」
真醍が姿を現す前から、気配で察知していたらしい雲雀が冷ややかに彼を見つめる。
その声にはっと起き上がると、真醍は先ほどまで抱き締めていた白目を剥いたままの倫子を踏みつけて雲雀にダイブした。