AEVE ENDING






颯爽と食堂をあとにすれば、当事者が背を向けた途端、押さえ込まれた反動か食堂は爆発したようにざわめきだした。


「あの金髪…、いつの時代のアダムだ?」
「キモノよね?すごいわ、生きた化石」
「あの天井、誰が直すの」
「この前も離れの渡り廊下が破壊されてたらしいね」「きれいな男…」
「中身は馬鹿丸だしだったけど」
「橘とも知り合いか?」
「うわ、腐ってそう」


―――殴りたい。

遠耳に聞こえる一部のざわめきに殺意すら覚える。



「橘、虫螻にいちいち反応しないで」

前を歩く雲雀に一喝される。
倫子の隣を歩く真醍の歩幅が広すぎるので、中傷に気を取られている間にかなり距離が開いてしまっていた。

少し歩調を早めて追いつくと、真醍がじゃれるように肩に手を回してくる。重い。


「…腕が痛い」

先程、凄まじい勢いで落下してきた大男に下敷きにされたせいで、右腕はまた血が滲んできてしまっている。
ほんの少しの量ではあるが、包帯に赤が浮かび上がるというのはなんとも気味が悪いし、気分も良くなかった。

「なんだお前、どうしたんだ、その腕」

倫子の右腕に視線を落とすと、真醍は無遠慮に血の滲むそれに触れようと手を伸ばす。


「…、!」

―――困る。



「真醍」

倫子が息を飲んだ瞬間、触れるはずだった真醍の腕が雲雀によって阻まれた。
雲雀の予想外の行動に、倫子も真醍も目を丸くする。

「なに、そんなわりーの」
「う、うん…」

顔を覗き込んできた、拍子抜けしたような真醍に、倫子は戸惑いながらも頷く。
視線を移せば、雲雀は既に先へと進んでしまっていた。

(…雲雀、ありがと)

受信してくれるかすらわからないが、テレパスを飛ばす。
雲雀はこちらに背を向けたまま、同様にテレパスで答えた。

(…今日はよくその言葉を聞くね)
(…言わせないでよ。天下の修羅が)
(君が勝手に言ってるだけでしょ)

そんなやりとりをしていると、倫子に気を遣ってか、肩に置かれた真醍の腕が軽くなる。

それがほんの少し、嬉しい。




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