AEVE ENDING






「それで、なにしにきたの」

自室へと向かいながら、雲雀が真醍に問う。
倫子は痛む腕を極力動かさないようにするので必死だ。

「呼ばれた。お前らの保護者とかいう奴に」
「…保護者?」

ひくりと細い肩が揺れる。

(あ、雲雀の機嫌が九十度くらい傾いた)

明らかにそれは「奥田」のことだろう。
倫子はともかく、雲雀の保護者面をするような人間は下半身麻痺男の奥田しかいない。

「昨日の夜さぁ、女とちちくりあってる最中に電話きて、それのせいで萎えて最悪だよ。ねー、雲雀ならわかるべ?最中に邪魔が入るのってほんと困るよな。なにがって、男の威厳がさぁ」
「ちょっと黙っててくれませんか。至近距離で耳が腐る」

最悪だ。
こいつ、奥田と同類だったんだ。


「やだん、橘ってば~。そんなこと言って、お前だって興味あるお年頃な、ん、だ、ろ?」
「ウザッ!キモ、ちょ、触るな!」

真醍の指が倫子の脇腹に伸び、もぞもぞと蠢き出した。

「ほーれほれ、感じるだろ?俺は純情乙女の鉄のパンツすら脱がす男だから。さあ委ねるんだ、倫子」
「すみません死んでください」
「ねぇ、耳障り」

馬鹿な話でぎゃひぎゃひしている倫子と真醍を、雲雀が苛立たしげに見ていた。
あまりに冷ややかで、足が竦むような視線に、倫子も真醍も思わず足を止める。


「下らないこと言ってないで、早く説明して」

雲雀は大人しくなったふたりを認め、踵を返しながら真醍を促すが。

「男の威厳が下らないわけあるかぁ!」

真醍は底なしの馬鹿だった。
自分のプライドを傷つけられたとでも思ったのか、雲雀に大股で迫り寄る。

雲雀は面倒臭そうに真醍を見遣ると、無言のまま歩を進めた。
それに自分の持論――まことに馬鹿馬鹿しい話ではあるが――を叫びながら付きまとう、猿一匹。


(なんだかんだ言って、仲がいいな…)

冷ややかな雲雀の背中に、騒がしい真醍の背中。

構い構わずの関係だが、真醍といると雲雀もよく喋る。

それは、いいことだ、とても。






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