AEVE ENDING





「…なに、アミとよりでも戻したの」

奥田の白衣にアイロンを掛けるような女は、アミしかいない。

「なによ倫子、そのやらしー顔は」
「やらしくない」
「嬉しい?」
「…そりゃあね。大事な親友の恋ですから。泣かせたらあんたの股関ぶっ潰してやるから」

下から睨めつければ、奥田は眼鏡の奥で苦笑した。
出来損ないが、ちょっとマシになっている。


「…肝に銘じときます」

アミパワーは絶大らしい。


奥田を部屋に招き入れると、雲雀と真醍が呆れたような表情で倫子を見ていた。


「…なに」

不愉快な視線に、思わず眉間に皺が寄る。
その問い掛けに、真醍が口を開いた。

「橘ぁ、おまえさ、一応女の子なんだから、今のはちょっと…」

それに便乗したのは、招き入れた奥田。

「あ、わかってるね、そこのおサルくん。だよね、気が強いのはともかく、今のはねぇ」

クソ、馬鹿が増殖した。
殴りたい。

「処女なんだから、少しは慎んだら」

そしてトドメ。
いけしゃあしゃあとこちらに打撃を与える雲雀に殺意が沸く。

「うるせーよスズメ!あんたも同じようなもんでしょ!」

しかし反撃しても、冷ややかな一瞥を喰らうだけ。

「僕は、キスひとつで戸惑うような人間が下劣なことを口にするなって言ってる」
「…っ、な」

なに言ってんだこいつ!
よりにもよって馬鹿ふたりの前で!

ざっと血の気が引いた倫子をよそに、背後の男二人は色めき立った。


「えっ…ちょ、聞いたおサルくん!キッスだって!」
「雲雀もやっぱ男だったんだなぁ」

―――ぶっ潰したい。




「それで、なにしにきたの」

憤りに震える倫子を見事に眼中から避けて、雲雀は奥田を見た。

奥田は煙草を咥えたままベッドに腰掛けて、ひとまずは真醍に顔を向ける。


「…あぁ、俺は奥田たきおと言います。ここの保健医をしてる。先日はうちの生徒達がお世話になったね」

客人向けの笑みを浮かべ、奥田は真醍に手を差し出した。

「…よろしく」

先程の馬鹿騒ぎはどこへやら。

握手を交わしあうふたりは、互いに慇懃な笑みを浮かべて挨拶を終える。





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