AEVE ENDING




「部屋に戻るよ」

雲雀が促せば、倫子は唇を尖らせたまま背を向けた。

その頼りなげな背は、先程の慟哭など悟らせはしないほど、真っ直ぐで。


(意地っ張り…)

怯えているくせに。

その強がる内心で、震え上がるほど怯え続けているくせに。


「本当はまだ、縋りたいくせに」

その細い肩に手を伸ばして、荒れた髪に指を絡めて、感じるであろう痛みを無視して、引き寄せて。

「っ、」

強張る背中を胸に抱えて、反論しないうちに上向かせた。

その驚きに満ちた倫子の唇に、同じものを押し付ける。

柔らかい姿を以て、雲雀を迎え打つその脈動は心地良く、けれどやはり、脅え震えたまま。


(…この場合、僕に脅えているのか)

その歪む唇と、後ろに反らされ気道を狭められた喉を指で押さえつける。

苦しさに喘ぎ、拘束する腕に倫子の爪が立つそのままに、貪り続けて。


「、…っ」

吐く息を飲み込んで、すべてを、奪うように。


(───あぁ、鳴かせてしまいたい)

それなのに、今はきっと泣くことしかできないのだろう。



「…もっと醜く、」

縋ればいいのに。

そうすれば、乱暴に凶悪に、その縋りつく手を跳ねのけてあげるのに。


「…っ、雲雀!」

その抗いも虚しさも飲み込んで、すべて、僕のものにできたら。

(その醜い体も、傷ついたまま血を滴らせる命も、憐れな、高ぶりも)

荒い息が鼻腔を擽る。
生臭い香りは、磯のものだ。


(───ねぇ、あの汚染された水を飲み込んで、なにをしてたの)

あぁ、そうして落ちゆく様は、酷く美しい。







神の贖罪を委ねる。

罪深い私が、なにを裁こうというのか。

あぁほら、そうして緩やかに、歯車は私を巻き込んでゆく。






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