AEVE ENDING
(…まぶしい)
朝陽がこもる厚い白雲が、瞼越しに眼球を刺激していた。
―――朝、だ。
「…っ、」
意識が浮上する間際、急激に襲ってきた鈍い痛みが上体を起こしかけた倫子を静止させる。
(…っ、いってぇ)
喉の爛れるような痛みに声もなく呻く。
久々に感じたこの痛みには、懐かしさすら感じてしまった。
痛みに顔をしかめつつ、さらりとしたシーツから起き上がれば、普段とは違う景色が広がる。
「…あれ、」
左側を向けば、テラスが真正面に。
その彼方には、雲の切れ間から一筋だけ射した陽光に照らされ金色に輝く水平線。
(おかしいな、…私の部屋からテラスが見えるのは、)
はっきりしない寝起きの頭で必死に考えていると、洗面所のドアが開いた。
「起きたの」
そちらに視線を向ければ、タオルを頭に掛けている雲雀の姿。
「…おきた、……え?」
洗面所と直接繋がっているということは、ここは雲雀の部屋ということだ。
そして倫子が眠っていたのは雲雀のベッドであり…通りで寝心地が良いわけである。
「…ごめん、涎垂れてた」
身を起こした後のベッドを見やれば、間抜けな涎の跡が無惨に広がっていた。
しまった。
「知ってる」
殴られるだろうかと危惧したわりには、興味もなさげな一言。
それでも安心するには相手が悪すぎる。
(一先ず、話題を反らそう…)
雲雀の髪から滴る繊細な滴が、酷く目に滲みた。
「…シャワー浴びてたの?朝から珍しいね」
「誰かさんにベッドを提供したら、肩に涎を垂らされてね」
「…そりゃ、災難だったね」
「ほんとに」
結局、事の反らしも叶わず、倫子は寝起き早々雲雀に殴られ抓られ、蹴り飛ばされた。
(…人生で最も、最悪の朝)