AEVE ENDING
『寂しいの?』
寂しい?
寂しい、わけが、ない。
(だって、あいつと私は…)
『その顔、久しぶりに見たよ』
『…どんな顔だよ』
今にも、駄々をこねそうな、顔。
(ねぇ、繋がりはなにひとつなかったのに)
なにを、傷んでいるの。
『足掻いてみたら?引き裂かれるのは、いやなんじゃないの?』
馬鹿なことを言うね、奥田。
(はじめから、)
引き裂かれるような繋がりなど、微塵も存在しなかった。
『あぁ、だから、そんな泣きそうになってるの?みっちゃん』
あぁ、このアホ面。
もう一発殴ってやろうか。
『知るか、ボケ』
そうだ、なにも知らなかった頃に戻ろう。
真実を隠すことに徹底しなくていい、怯えなくていい毎日に、戻ろう。
「―――橘」
ねぇ、その名前が、あんたから紡がれるのはこれが最後だろうか。
大陸から留学してくる新しい神様に、私はその席を明け渡すのだ。
「寂しいの」
「誰が」
(寂しい、)
「こっち見なよ」
「…いやだ」
(あんたに縋りつくような、眼を)
きっと今、してる。
雲雀の髪から滴る冷たい塊が、倫子の頬を伝う。
まるで、涙みたいに。
「橘」
仰向けになった倫子の真上に降り注ぐ、静かで冷たい、高尚な、影。
「…橘」
その穏やかな声の裏で、あんたはなにを考えているだろう。
「…昨日、あの後どうやって部屋に戻ったか、覚えてない」
雲雀の綺麗な、切れ長の眼が微かに細められる。
(あぁ、この表情も、見れなくなるのだ)
「浜辺で気を失ったのは君で、そんな君を部屋まで運んだのは僕だからね」
その薄い唇が丁寧に言葉を紡ぐのを近くで目にするのも、これが最後。
(…未練は、必要ない)