AEVE ENDING





「…雲雀、」

あぁ、真っ白な影が、落ちてくる。

(ねぇ、)

その形いい唇に、形を歪めた醜い唇。

(まるで私の、魂そのものだ)

混沌とした不潔な精神は、純然とした美しい精神に押し潰されて、そしてただの影となる。

(そうして、粉々になっていけばいい)



この男は、私を陵辱する。
私は、この男を陵辱した。

(救われたいわけじゃない、決して)





「…どうして、キスしたの」

まだ見つめ合ったまま、けれど離れてしまった唇に問う。

(…その離れた唇が恋しいなんて)

あまりにも、馬鹿馬鹿しい限りだ。

答えなど、必要ないのに。


「…餞別だよ」

短期間でも、まともに僕のパートナーでいられたのは君が初めてだからね。


「それ、褒めてるわけ?」「好きに解釈したら?」

にたりと歪む。
艶やかな目元の皺も、揺れる長い睫毛も。

(……最後だ)



「きっともう、関わることはないだろうから」

その言葉が私を苦しめるなんて、あんたは知らない。


(今、ここで)




「いつか、殺してやるよ」

それは、相反する願いだろうか。
この体を染色する、唯一の美しい生き物。


「そう」

その落とすように笑む、真意は?

今更聞いたとして、なにが変わるわけでもないのに。



「バイバイ、雲雀」

これが、最後。

きっともう二度と、関わることはないだろう。

(はじめから、間違いだった)

倫子と雲雀が、関わりを持った時点で、既に。

(奥田が悪戯に弄った結果が、これだ)

これすらも、想定内だったのだろうか。

倫子が唯一知る、雲雀の暖かさも、すべて。

(それを手放したくないと願う、私を)

この心中を苛む、独りよがりな虚しさも、痛みも、苦しみも。



(もしそうなら、)

やはりもう二発は、ぶん殴っておくべきだ。

けれど、今となっては。


(なにもかも、無駄なこと…)








その美しい指で私を貶めて。

罪深い私のこの醜悪な体を今すぐ切り裂いて。

そして今すぐ、貴方の血肉にして欲しい。





「さようなら、橘」


ほら早く、貴方の一部となって、そして脈打っていく。






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