AEVE ENDING
「―――あの娘が、神から身を引いたとか」
美しいマタドールを磨いている男に跪いて告げたそれは、何気ない報告のつもりだったのだ。
そう、本日の天気を問われ、それに応えるような。
そんな私の報告に、マタドールを愛でていた主君は、作業を中断して顔を上げた。
生粋のピグマリオニズムである主君にしては珍しい。
その白濁とした主が、ゆっくりと口を開いた。
沈黙していた空気が、皹割れてゆく。
「そろそろ、時期か」
それは、催促であったのだろう。
「捕らえますか」
主君の意志は、マタドールの瞳のビー玉のようにくすんで見えない。
「…種は蒔いた」
ならば芽吹くのを待てばいい。
「我々は、」
「待て。時がくれば、あれは自然と手に入る」
それは確信、であろうか。
既に神を手駒にしている男の、それは。
あの哀れな娘を、種に。
「芽吹くのが愉しみだ」
囁いた主の言葉、まるで近い惨劇を予見しているが如く。
「その蛇に、監視させろ」
私の頭皮に刻まれた青い蛇を見やり、哀れな娘に、残酷な糸を張る。
(血の涙を、流して、ゆくのだろうか)
憐れで気高い、その血を神と分かつ、娘は。